eぶらあぼ 2019.8月号2
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41山田和樹(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団“歴史的企画”と共に新コンマスが活動開始!文:江藤光紀第713回 東京定期演奏会9/6(金)19:00、9/7(土)14:00 サントリーホール問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 https://www.japanphil.or.jp/ 日本フィル・シリーズは、今年生誕100年を迎えた同フィル創立指揮者・渡邉曉雄が約60年前に創設した日本人作曲家への管弦楽曲委嘱・初演企画。戦後作曲界の屋台骨を作ってきた名作の山脈に、正指揮者・山田和樹のタクトのもと、42作目となる新作が3年ぶりに加わる。起用されたのはテレビや映画音楽でおなじみの大島ミチル。数々の映像を美しく彩ってきたベテランが、オーケストラのキャンバスいっぱいに雄大な絵画を描く。 日本フィル・シリーズ第2作、間宮芳生の「ヴァイオリン協奏曲第1番」では、この秋から日本フィルのコンサートマスターに就任する田野倉雅秋がソリストに登場。田野倉はこれまで広島、名古屋、大阪のオケでコンマスを歴任した実力者で、いよいよ東京での活動を本格始動する。日本の“民俗的”音楽家の旗頭として名を馳せ、90歳を越え今なお創作を続ける長老・間宮の若き日の感性の発露を、鮮烈に表現してくれるはずだ。 今回、新旧の日本フィル・シリーズと組み合わされるのはフランス近代の劇音楽だ。オリエンタルなエキゾティシズムが香るサン=サーンスの歌劇《サムソンとデリラ》より「バッカナール」の酒席で幕を開け、神々の愛の駆け引きを描いたルーセル「バッカスとアリアーヌ」で閉じる。管弦楽が多彩で華やかな効果を上げるこのバレエ組曲は山田の得意曲だが、こちらも最後には饗宴へと突入。プログラム・ビルディングにかけては一家言ある山田のこと、きっと新しいコンマスを音の宴で迎えようという趣向だろう。なんとも粋なはからいではないか。田野倉雅秋高関 健(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団BACHが導く大編成サウンドの妙文:柴田克彦第327回 定期演奏会9/7(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール問 東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 http://www.cityphil.jp/ このところ東京シティ・フィルの定期演奏会で好演が続いている。4月の高関健指揮のブルックナーも、5月の川瀬賢太郎指揮のショスタコーヴィチも、作品に対する誠意に溢れた熱演で聴く者を魅了した。指揮者とオケ一体で“音楽する”彼らのコンサートを、ぜひとも多くの人に聴いてほしいと願わずにはおれない。 そんな折、常任指揮者として4年目を迎えた高関健が、栄誉あるサントリー音楽賞を受賞した。受賞理由を一部記すと「泰西名曲に安住せず、しかし決して奇をてらうだけでもないプログラミングを構築すること、そしてどんな曲であっても細部まで手を抜かずに仕上げること」。これまさに高関&シティ・フィルの在り方を意味している。 9月のシティ・フィル定期は、4月以来となる高関の登場。バッハ(野平一郎編曲)の「フーガの技法」より、シェーンベルクの「管弦楽のための変奏曲」、マーラーの交響曲第1番「巨人」というプログラムも、実に興味深い。「フーガの技法」は「BACH」の名を音にしたフーガで筆が途絶えており、シェーンベルク作品はこの「BACH」音型が隠れた主題となっている。さらにマーラーはシェーンベルクが直に信奉した作曲家だ。これは絶妙な関連性を有する、前記の受賞理由そのものというべきプログラムなのだ。「フーガの技法」は編曲と相まって清新な音楽が創出されるであろうし、「管弦楽のための変奏曲」は伝統の形態の到達点と巨大編成による精巧な音響が聴きもの。「巨人」は、高関の精緻な構築が結実した名演が期待される。この濃密な公演に、こぞって足を運びたい。高関 健 ©大窪道治山田和樹 ©山口 敦

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