eぶらあぼ 2019.8月号2
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152CDCDCDことばのない詩集/高橋悠治ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1&5番「皇帝」/渡邉康雄&オーケストラ・アンサンブル金沢フランク:ヴァイオリン・ソナタ、ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」/三浦文彰&辻井伸行ショパンの歌 ―ショパン ピアノ作品集―/中桐望F.クープラン:花開くユリ、葦/G.F.マリピエロ:アーゾロ詩集、きらめき/高橋悠治:空撓(そらだめ)連句/A.シュリック:優しいマリア/C.ジュラ:「優しいマリア」変奏曲高橋悠治(ピアノ)ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番・第5番「皇帝」渡邉康雄(ピアノ/指揮)オーケストラ・アンサンブル金沢フランク:ヴァイオリン・ソナタブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」三浦文彰(ヴァイオリン) 辻井伸行(ピアノ)ショパン:ロンド、アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ、ノクターン第20番(遺作)、ピアノ協奏曲第2番より第2楽章(ピアノ独奏版)、バラード第3番、スケルツォ第2番、ワルツ第6番「小犬のワルツ」・第7番・第8番、舟歌中桐望(ピアノ)収録:2019年3月、浜離宮朝日ホール(ライヴ)マイスター・ミュージックMM-4059 ¥3000+税収録:2019年3月、紀尾井ホール(ライヴ)ナミ・レコードWWCC-7900 ¥2500+税エイベックス・クラシックスAVCL-25991 ¥3000+税オクタヴィア・レコードOVCT-00166 ¥3000+税高橋悠治は昨今、ますます洋の東西や時代、様式が意味をなさなくなってしまう自在の境地に遊んでいるように見える。本アルバムにも、その精神は如実に表れている。奇妙にスウィングするクープラン「花開くユリ」の千鳥足に魅せられてついていくと、いつの間にかマリピエロの幻想の世界へと足を踏み入れている。高橋の即興的な自作「空撓連句」によって情景が切り替わると、再び15世紀の民謡「優しいマリア」でタイムスリップするが、現代作曲家チャポー・ジュラは自在な変奏で、この民謡の歴史性を解体する。飄々とした風情で小さなものに眼差しを向けながら、世界の広がりを一気にとらえてしまう離れ業。(江藤光紀)渡邉康雄によるベートーヴェンのピアノ協奏曲の弾き振り。「皇帝」は冒頭のカデンツァから渡邉のピアノの粒立ちがとてもきれい。オーケストラ・アンサンブル金沢も、ライヴらしく生々しい熱気があり、多彩で豊かな表情を聴かせる。独奏提示部でも透徹したピアノの音が煌めき、第2主題の抒情も美しい。展開部の頂点のピアノとオケの対峙も息をのむほど迫力がある。瞑想的な緩徐楽章と躍動的な終楽章も素晴らしい。第1番で面白いのは、ベートーヴェンの自作2つを組み合わせたカデンツァと繊細な表情の緩徐楽章。感銘深い演奏だ。     (横原千史)2009年にそれぞれ国際コンクールを制した三浦文彰と辻井伸行。16年にデュオとして初共演して意気投合、各地で共演を重ねてから臨んだ録音は、フランクとブラームス第1番というロマン派の二大ヴァイオリン・ソナタ。ピュアな音色、瑞々しい感覚で名作を見直し、虚心に心を通わせることで、まっすぐな音楽性が光る美演が生まれた。フランクはロマンに溺れることなく、本作が持つ古典性をしっかり押さえる。ブラームスは彼らのスタイルにさらに合致。俊英たちの誠実な音作りから、40代の作曲者が青春時代を回想しているかのような風情すら漂い、作品と演奏の魅力にため息。(林 昌英)中桐望による待望のセカンド・アルバムは「ショパンの歌」。オペラをこよなく愛したというショパン。中桐は2014年から2年間のポーランド留学を経て、彼の音楽に「歌うこと」の大切さを見出し、それを自身の思い入れ深い作品群に込めた。独奏版のピアノ協奏曲第2番第2楽章、バラード第3番、舟歌に、柔らかくも芯の強さを滲ませ、絶妙な間合いと呼吸感に、一回りもふた回りも成長した中桐の音楽的確信が感じられる。正統的解釈と自由な歌心とのせめぎ合いが楽しいスケルツォ第2番、この上なくエレガントな「小犬のワルツ」など、聴きどころ満載だ。    (飯田有抄)CD

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