eぶらあぼ 2019.7月号
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34 毎年8月に群馬県草津町で開催される「草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル」。1980年に日本で最初の本格的な夏期の音楽アカデミーとしてスタートし、今年40回目を迎える。アカデミーのみならず、講師たちによる演奏会が連日開催されるなど、国内有数の音楽祭として知られ、2010年からは、作曲家の西村朗が音楽監督を務める。 「最初にこの音楽祭に関わったのは1984年。当時はアカデミーに作曲のクラスがあって、イサン・ユン先生が講師で来た時に、月刊誌『音楽芸術』の依頼でインタビューしました。その頃、草津は現代音楽の重要な夏の拠点で、それからほぼ毎年通い続け、作曲の個展も開いてもらいました。まずは一作曲家として参加し、遠山一行先生の後を引き継いで音楽監督になってからは、難しい面や大変な面もありますが、多くの方々に支えていただき、この10年はあっという間でした」 音楽祭は毎回異なるテーマが設定され、作曲家に絞ることも、昨年の「自然」のようにテーマを広げることも。今年は、「バッハからシューベルトへ」。二人の作曲家をどのように関係づけるかというと…。 「テーマを広げたり絞ったりするダイナミズムは大切で、今回はちょうど中間くらい。40回目だから何か特別にすることなく、テーマもガチガチにしないでゆったりやりたいなと思っています。シューベルトはベートーヴェンと同時代を生きていますが、時代としては19世紀の作曲家。シューベルトにとってバロックは明らかに過去の時代ですが、当時のウィーンでは、バッハの音楽はメジャーで、学ぶべき対象になっていました。シューベルトにその影響があるかないかではなく、バッハという時代の流れで広が日本で最も歴史のある音楽フェスティヴァル、40年目となる今回の魅力は?取材・文:柴辻純子りをもっていく作曲家の姿、次を見ているシューベルト。過去からの風を受けながらシューベルトが先に進もうとする。そこに接点があるわけですね」 シューベルトをめぐる演奏会のなかで注目されるのは、音楽祭と縁の深いテノール歌手、故・エルンスト・ヘフリガーの生誕100年を記念する「シューベルトの歌曲とシューベルティアーデ」。豪華な出演者とともに、シューベルトが愛好したギターが編成に入るのも興味深い。 「歌とギターの組み合わせは自然だけれど、意外にやっていないでしょう。ギターの鈴木大介さんは、武満徹さんから絶賛された近現代のスペシャリスト。シューベルトの時代と今とでは、歌とギターがもたらす世界が違うので、それをどのようにするのかが聴きどころだと思います」 この演奏会では西村のチェロ作品も日本初演される。「チェロのタマーシュ・ヴァルガから、コダーイの無伴奏ソナタと同じ特殊な調弦で書いてと頼まれてね」と、無茶な?要求にも軽々と応え新たな創造が生まれる。演奏家が自由に発言して作り上げていくのは、この音楽祭の魅力でもある。今回はジャズ界の大御所、秋吉敏子を迎えてのコンサートや遠山慶子のショパンなど必聴の演奏会が目白押し。避暑を兼ねて草津へ。豊かで贅沢な時間が過ごせそうだ。interview 西村 朗(草津夏期国際音楽アカデミー &フェスティヴァル音楽監督)第40回草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル8/17(土)~8/31(土) 草津音楽の森国際コンサートホール問 草津夏期国際音楽アカデミー事務局03-5790-5561http://kusa2.jp/※音楽アカデミー&フェスティヴァルの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。©東京オペラシティ文化財団 大窪道治

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