eぶらあぼ 2019.6月号
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46広上淳一(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団イギリスの息吹を感じさせる独創的な選曲で文:オヤマダアツシ第712回 東京定期演奏会 7/12(金)19:00、7/13(土)14:00 サントリーホール問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 https://www.japanphil.or.jp/ あなたがもしイギリスの文化や芸術に関心を抱き、大都市ロンドンや、湖水地方やコッツウォルズをはじめとするカントリーサイドの大自然を愛する人ならば、日本フィルの7月定期演奏会(広上淳一指揮)は幸福な時間を約束してくれることだろう。イギリスの作曲家、ロンドンの栄光を讃えた交響曲などが並ぶラインナップは、まさに英国讃歌といえるプログラムだからだ。 合唱界ではおなじみのジョン・ラターによる「弦楽のための組曲」は、有名な民謡の旋律などを引用しており、弦楽作品王国であるイギリスらしい優しさに満ちた音楽。約10分ほどのミニ・ピアノ協奏曲であるジェラルド・フィンジの「エクローグ」は、新緑が豊かな自然の中で爽快な風が吹いているような作品(ピアノ:小山実稚恵)。そして名匠カルロス・クライバーがなぜかレパートリーに加えていたジョージ・バターワースの「2つのイギリス田園詩曲」は、まさに穏やかな田園風景を音楽で描いた愛らしい管弦楽曲なのだ。 これらに加え、大都会であるロンドンの活気を連想させるハイドンの交響曲第104番と、ゲストの小山が主役となるJ.S.バッハのピアノ(チェンバロ)協奏曲第3番を。音符に命を吹き込む広上の指揮、北ヨーロッパの響きを知る日本フィルの演奏で、未知の作曲家と音楽に親しみをおぼえるはず。初夏の暑さが気になる7月中旬、心を和ませてくれるコンサートになることだろう。小山実稚恵 ©Hiromichi Uchida川瀬賢太郎(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団俊才たちが魅せるオール・ショスタコーヴィチ・プロ文:林 昌英第325回 定期演奏会 5/31(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール問 東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 http://www.cityphil.jp/ 20世紀作品に近年積極的な東京シティ・フィルが、5月末の定期演奏会でショスタコーヴィチ・プロに挑む。しかも大曲のない小粋な演目で、愛好者にも敬遠気味な方にも薦めたい公演である。 まず、ロシア革命が題材となる交響詩「十月革命」。本公演では最も重厚な音楽で、金管と打楽器が炸裂する豪快な音響が興奮を誘う、充実の力作だ。続いて、作曲者の息子マキシムのために書かれたピアノ協奏曲第2番を。ショスタコーヴィチとしては異例なほどの平明な響きで、面白い仕掛けや清澄な美しさあふれる、誰もが楽しめる逸品。メインは、諧謔味がありながら、古典的な完成度抜群のコンパクトな傑作、交響曲第9番。作曲はスターリン体制下の1945年で、戦勝を祝う偉大な“第9番”をという期待の中、人を食ったようなシンプルさとシニカルさが際立つ本作が発表された。果たして当局から批判を受けてピンチを招くことになるのだが、それをも承知で世に出したであろうショスタコーヴィチの気迫も感じられる重要作である。 こだわりの3曲に臨むのは、神奈川フィル常任指揮者で、東京シティ・フィルとも良好な関係をもつ川瀬賢太郎。ショスタコーヴィチへの思いは深く、熱演も実現してきた川瀬だけに、この作曲家の情熱と皮肉を抉り出す充実の演奏への期待は大きい。ピアノは20歳でロン=ティボー国際コンクール優勝以来、澄んだ音色と名技で活躍中の田村響。歳の近い川瀬との気心知れた交歓で、ショスタコーヴィチの曇りのない微笑みを描き出してくれるに違いない。田村 響 ©武藤 章広上淳一 ©Masaaki Tomitori川瀬賢太郎 ©金子 力

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