eぶらあぼ 2019.6月号
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43沼尻竜典(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団メッセージを持った重量級の作品二曲を文:江藤光紀6/14(金)19:00 サントリーホール6/16(日)15:00 Bunkamuraオーチャードホール問 東京フィルチケットサービス03-5353-9522 http://www.tpo.or.jp/ 東京フィルの6月定期は、沼尻竜典が「田園」「大地の歌」という大曲を二つ並べた。 「田園」は「運命」で形式美を突き詰めたベートーヴェンが、交響曲のがっちりとした構造に描写性をミックスした意欲作。田園風景を前にして弾む心が活写され、小川のほとりでの散策、村人たちの愉快な踊りへと続き、激しい嵐が去った後には牧人の歌が聞こえてくる。 ワーグナーのヘルデン・テノールとしても著名なダニエル・ブレンナ(テノール)、力強い表現力が魅力の中島郁子(メゾソプラノ)の布陣で臨む「大地の歌」は、李白や孟浩然らの漢詩のドイツ語訳に音楽を付けた交響的連作歌曲。青春や美について思索を巡らした後、友との別れに終わる。第九交響曲のジンクスを晩年のマーラーが嫌い、交響曲と銘打たなかったという逸話が有名だ。 ところでこの重量級プログラムには、明確なメッセージが表れている。沼尻といえばかつて東京フィルの正指揮者を務めたが、その後独リューベック歌劇場を率い、また現在はびわ湖ホールの芸術監督の任にもあって、いまやオペラ・シーンに欠かせない存在だ。東京フィルは、言わずと知れた新国立劇場の公演を支えるメインのオーケストラ。オペラにかかわる音楽家は、音で物語る力を日常的に養っている。彼らは日本の“音語り”の最高のコンビなのだ。リハーサル回数も増やして臨むというから、これらの交響的作品もきっとオペラティックなドラマへと練り上げてくれるに違いない。自然と生命に思いを馳せる充実したひと時が過ごせそうだ。ダニエル・ブレンナ ©Emelie Kroon山田和樹(指揮) 読売日本交響楽団いまどきのファンを唸らせる絶妙なプログラミングが実現文:江藤光紀第589回 定期演奏会 6/13(木)19:00 サントリーホール問 読響チケットセンター0570-00-4390 https://yomikyo.or.jp/ 一口にクラシック・ファンと言っても、嗜好や趣味は様々。「あの曲をやってくれたらいいのに」とか、「名曲なのにどうして人気がないんだろう」と思う曲を誰しも一つや二つ持っているはずだ。山田和樹のプログラム・ビルディングは、そのへんの需要を掘り起こすのが滅法うまいが、今回は特にアンテナの感度がよい。 「SF交響ファンタジー第1番」は、東宝特撮映画の劇伴を数多く手がけ一時代を築いた伊福部昭が、ファンの要望に応えそれらをコンサート用に編みなおしたもの。金管が禍々しいテーマを歌いだした後に続くのは、あの勇壮なゴジラのテーマだ。 ラフマニノフの2歳年下で、20世紀半ばまで生きたソ連のロマン主義者グリエールの「コロラトゥーラ・ソプラノのための協奏曲」では、全2楽章にわたりソプラノがヴォカリーズ(歌詞を持たない母音の唱法)で華麗な技巧を披露。グリエール晩年の甘美な旋律とセンスのよい和声は、現代人の耳にもすっきりと入ってくる。独唱のアルビナ・シャギムラトヴァは、MET、ウィーン、ロイヤル・オペラなど世界の名門歌劇場で、コロラトゥーラの代名詞というべき夜の女王を当たり役としており、まさに適任だ。 そして、短命で亡くなったカリンニコフの「交響曲第1番」。スタンダードな四楽章構成に、世紀末ロシアのもう一つの抒情が聴かれる。軽やかで色彩的、躍動感にあふれ耳になじむメロディーが満載のカリンニコフの交響曲は、アマ・オケの人気演目だ。誰もが知っているゴジラのテーマ、歌ものは苦手という人でも楽しめる声楽協奏曲と取り合わせ、豪華な読響サウンドで召し上がれ。左より:山田和樹 ©読響/アルビナ・シャギムラトヴァ ©Pavel Vaan/Leonid Semenyuk中島郁子沼尻竜典

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