eぶらあぼ 2019.6月号
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Presented by Toyonaka Performing Arts Center 日本センチュリー交響楽団による「センチュリー室内楽シリーズ」。7月、首席客演コンサートマスターの荒井英治を中心に、2夜連続で弦楽四重奏を聴かせる。メンバーは、ヴァイオリンに荒井とコンサートマスターの松浦奈々、ヴィオラに元首席の丸山奏、チェロに首席の北口大輔という首席奏者たち。モルゴーア・クァルテットによる弦楽四重奏版のプログレッシブ・ロックでも大注目を集める荒井が率いるだけに、プログラムはありきたりでない。 第1夜は「古典と20世紀のポーランド作品」。まずはベートーヴェンの弦楽四重奏曲第11番「セリオーソ」。 「ベートーヴェンのあとの世代の作曲家たちはみんな、彼が16曲の弦楽四重奏曲で開いたパースペクティブを受け継ぎながら、それを自分たちのフィールドで革新しているようなもの」と荒井が言うように、まさに「古典」。当然ポーランドの現代作品もそこにつながっている。グラジナ・バツェヴィチ(1909〜69)の弦楽四重奏曲第6番、クシシュトフ・メイエル(1943〜)の弦楽四重奏曲第4番、シモン・ラクス(1901〜83)の弦楽四重奏曲第4番。今回演奏される作品すべて知っている人はかなりのマニアだろう。 「ラクスは僕も今回初めて知りました。強制収容所から生還したユダヤ人作曲家です。調べてみると、バツェヴィチは7曲、メイエルは15曲、ラクスは5曲の弦楽四重奏曲を書いている。シマノフスキ、ルトスワフスキ、グレツキ、ペンデレツキ。ポーランドは弦楽四重奏曲の宝庫なのです」 3曲はそれぞれに性格が異なるものの、たとえばメイエルに顕著な「暗闇」ともいうべき暗さは、民族の抱えた長い悲劇の歴史であり、それはバツェヴィチにも感じるし、一見ノリのいいジャズのようなラクスの作品にも埋もれているはずだという。 「その意味で、先行きがどうなるかわからない不安を抱えた激動の現代に生きるわれわれだからこそ受け取れるものが、きっとあると思います」 そして第2夜が「荒井英治セレクション」。かつて「P.D.Q.バッハ」名義の冗談音楽で名を馳せたピーター・シックリーと、タートル・アイランド四重奏団のデイヴィッド・バラクリシュナンによる、弦楽四重奏編成のジャズ。 そしてエマーソン・レイク&パーマー! 面白いのは、荒井の編曲が、ベートーヴェンの確立した弦楽四重奏の書法に則っているということ。それを楽譜通りに弾けば(ただし高難易度!)プログレのスタイルになるように書かれているのだそう。本家本元の故キース・エマーソンが認め、「楽譜をくれ」と言ってきた、いわばお墨付きだ。プログレを知らない、若い世代に弾いてほしいと熱く語る。 「実際、このメンバーは、音を出すとすぐに、エッセンスとかスピリットを掴んじゃうんです。若い人たちの速さにはびっくりしますよ。モルゴーアで何度やってもできなかったことが最初からできている」 70年代にロック・シーンの中心だったプログレが、弦楽四重奏という新たな衣を与えられて、再び普遍的な輝きを放つステージだ。センチュリー室内楽シリーズ Vol.5 & Vol.67/10(水) 第1夜 古典と20世紀のポーランド作品7/11(木) 第2夜 荒井英治セレクション~弦楽四重奏によるプログレッシブ・ロック、ジャズ~各日19:00 豊中市立文化芸術センター(小)問 豊中市立文化芸術センター チケットオフィス06-6864-5000http://www.toyonaka-hall.jp/静寂と咆哮、極限のクァルテット・サウンドを求めて取材・文:宮本 明Eiji Arai/ヴァイオリン(日本センチュリー交響楽団首席客演コンサートマスター)©S.Yamamoto

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