eぶらあぼ 2019.6月号
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30ウェールズ弦楽四重奏団 Verus String Quartetベートーヴェン全曲に誠実に取り組みたい!取材・文:山田治生 写真:中村風詩人 ウェールズ弦楽四重奏団(﨑谷直人、三原久遠、横溝耕一、富岡廉太郎)が、第一生命ホールでの3年間にわたるシューベルトの後期弦楽四重奏曲のシリーズを終え、今年9月からベートーヴェン・チクルス(全6回)を開始する。彼らは、2017年から1年に一度のペースで、大分のiichiko総合文化センターにおける、ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会を始め、これまでに第2番、3番、5番、8番、9番、12番、15番、16番を演奏。それに合わせて、3枚のCDを録音している。第一生命ホールでのチクルスは、それらと並行しての新たなプロジェクトとなる。三原「iichiko総合文化センターからベートーヴェン・チクルスの話をいただいた際、僕たちはまだ、ベートーヴェンを全部レパートリーとしていたわけではありませんでしたので、メンバー全員で受けるか悩みました。しかし、この年齢で、やりたいと思っても簡単にできるものでもありませんし、ぜひ挑戦したいと思い立ちました。そして、今回、第一生命ホールでもベートーヴェン・チクルスを始めることになりました」﨑谷「ベートーヴェンの後期の弦楽四重奏曲はまだ早いとか、初期からやるべきとか、あるいは、弦楽四重奏はハイドンから始めるべきとか、よく聞きますが、実際に専門的に取り組んでみると、どれも難しいことがわかります。それは、どの作曲家にも共通しているものがあると思います。特に演奏する際に、ベートーヴェンだからとか、モーツァルトだからとか意識することはありません。僕たちは一緒に留学し、この4人には和声やフレーズのベースとなる共通言語がありますので、それを持ち寄って、それぞれの作品に向き合います」富岡「ベートーヴェンの場合、バランスの取り方にも特に注意して演奏します。伴奏に思える八分音符の刻みが背景にとどまらず、後に一つのモティーフとなったりします。ベートーヴェンはメロディの裏にある全てのパートに理想があるので、それがどうであったのかを考えながら弾くのが楽しいですね。全ての音に意思と表現力をもって、曲に起きていることを一つも見逃さず、素通りしないように心掛けています」横溝「ベートーヴェンの弦楽四重奏曲は、僕の中では聖書みたいなものです。常にそばにあるべきものでありながら、そう簡単には触れられない存在。クァルテットを続ける以上、死ぬまでこの作曲家とは向き合い続けなければならないと思いますし、すべての弦楽四重奏団の宿命だと思います」 第1回は第6番と第13番「大フーガ付」、第2回は第9番「ラズモフスキー第3番」と第15番を演奏する。三原「第6番と第13番はともに変ロ長調で書かれています。第6番の第4楽章にはアダージョの序奏がつけられていて、中期の作品を予見しているようです。『大フーガ』は今の時代になっても、鮮烈な印象を与える作品だと思います。リハーサルでは予想もしないアイディアや表現がいつも生まれます。この2曲は初めてのレパートリーなので、今からリハーサルが楽しみです。第9番はハ長調、第15番はイ短調という近い調性ですが、性格は正反対で、第9番が外へのエネルギーが強いのに対し、『神への感謝』と書かれた第3楽章を持つ第15番は心の中へ中へと向かう音楽です」 ウェールズ弦楽四重奏団としての将来の目標についてこう語る。横溝「普段は別々のオーケストラ(注:﨑谷は神奈川フィル、三原は都響、横溝はN響、富岡は読響)で、受ける刺激も様々ですが、それぞれ『これがふさわしい』と思うものを持ち寄ります。これからは社会の中で音楽の重要性がより大きくなってくると思います。AIの時代と言われますが、弦楽四重奏のような表現芸術には感情といった部分があり、これは人間にしか表現できないからです。そのとき、年齢を重ねた我々の演奏を聴きたいと思っていただけるクァルテットになることを将来的な目標にしています」

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