eぶらあぼ 2019.5月号
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60柴田智子 SOPRANO FOLKLORE6/21(金)19:00 豊洲シビックセンターホール問 T.S.P.I. 03-3723-1723 http://www.tomokoshibata.com/柴田智子(ソプラノ)次代へ伝えたいフォルクローレの名曲たち──フィンジ〈武器よさらば〉を中心に取材・文:東端哲也Interview クラシカル・クロスオーヴァー歌手の草分け的存在であり、ジャンルの垣根を越えて“うた”に新たな生命を吹き込むソプラノ、柴田智子。ニューヨークを本拠地としてアメリカ音楽の魅力を伝える第一人者としても知られる彼女だが、6月のソロ・コンサートでは「ソプラノ FOLKLORE(フォルクローレ)」をテーマに掲げ、イギリス音楽を中心としたプログラムを組んだ。 「“民族音楽”と訳されることも多いですが、フォルクローレには“伝承”という意味もあります。ジェラルド・フィンジ(1901-56)の知られざる名曲〈武器よさらば〉を軸に、次代へと伝えたい作品をご紹介します」 第1部は今回のメインテーマである英国。生涯に100曲以上の歌曲を残したロジャー・クィルター(1877-1953)の作品からは、民謡をもとにした〈The Fuchsia Tree〉(つりうきの木)や、エリザベス王朝時代の抒情詩による〈Weep You No More〉(もう泣かないで)、そしてシェイクスピア作の〈O Mistress Mine〉(おお私の恋人)など、それぞれ趣の異なるテキストも魅力的だ。 「日本の声楽科では最初にイタリア古典歌曲を教わりますが、ジュリアード音楽院ではヘンデルと共にこのクィルターを学ぶことから始まります。旋律がとても美しいのです」 王立音楽院で職に就くも都会の喧騒を厭い、郊外でリンゴ農家を営んだという異色の経歴を持つフィンジ。彼の序奏とアリアからなる〈Farewell to Arms〉(武器よさらば)は、農園を耕す道具が武器になり、戦争が終わるとまた道具に戻るという過程と、兵士を経験した男性の生涯を描いた内面性溢れる作品。 「少し内省的ですが、現代に必要な深いメッセージを感じます。実はフィンジの家まで訪ねたこともあるのです」 第1部のラストをポール・マッカートニーの「リバープール・オラトリオ」で締め、第2部は、古い民謡をアメリカ歌曲へと高めたコープランドや、ジャズとも馴染みが深いガーシュウィンのナンバーで幕開け。そして、舞台は米国から日本へ。 「現代日本の作曲家の中で、特にお気に入りの木下牧子さんの作品や、さくらももこさんが書いた〈ぜんぶ〉(相澤直人)、若い世代に人気の楽曲〈手紙~愛するあなたへ~〉(藤田麻衣子)と、クラシックのソプラノにしては大胆な選曲になりました。こういう世界も大切にしたいのです。そして、自作曲である〈サイレントソング〉は亡くなった母へ伝えたかった私の気持ちを歌にしました」 共演ピアニストは偶然にも同じ名字を持つ柴田かんな。柴田のピアノ・ソロにはビリー・ジョエルが書いたクラシック作品を薦めるあたりも彼女らしい。5月には地元・自由が丘恒例の「Sweets Festa」“音楽大使”に就任。最終日(5/6)に出演予定とか…。こちらも楽しみだ。レ・クロッシュ リサイタル ~ピアノ&チェロの夢の世界~姉弟デュオで醸し出す爽やかな音色文:笹田和人 共に幼少時に渡仏し、パリ高等音楽院に学んだピアニストの姉・宇宿真紀子とチェリストの弟・宇宿直彰によるデュオ「レ・クロッシュ」。ルエイユ・マルメゾン音楽院大学院でそれぞれの専門であるピアノ科とチェロ科に加え、共に室内楽科でも学んで首席で卒業。各自がヨーロッパ各国や日本でソリストとして活躍する一方、フランス語で“鐘”を意味するグループ名のもと、精力的にデュオ活動を続けている。 心待ちにしているファンも数多い、恒例の春のリサイタル「ピアノ&チェ5/27(月)19:00 東京文化会館(小)問 及川音楽事務所03-3981-6052https://maki-nao.com/レ・クロッシュロの夢の世界」。今回は、グリーグ「チェロとピアノのためのソナタ」、元来はピアノ曲の「春に寄す」、そしてポッパー「演奏会用ポロネーズ」、ベッリーニの歌曲〈優雅な銀色の月よ〉をデュオで。さらに、直彰がバッハ「無伴奏チェロ組曲第1番」、真紀子がラヴェル「水の戯れ」やピアソラ「アディオス・ノニーノ」と、それぞれがソロ曲も披露する。2人の名手が鳴らす“鐘の音”が、爽やかな風を届けてくれるだろう。

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