eぶらあぼ 2019.5月号
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26朴パク 葵キュヒ姫Kyuhee Park/ギター「イマジン七夕コンサート」で名曲・アランフェス協奏曲を披露取材・文:宮本 明 写真:藤本史昭 今年第15回を迎える恒例の「イマジン七夕コンサート」スペシャル版に、人気ギタリスト朴葵姫が出演。井﨑正浩指揮の東京交響楽団とロドリーゴの名曲「アランフェス協奏曲」を弾く。 「ギターのオリジナル作品にこんな名曲があることに感謝します。でも、私にはちょっとトラウマがあって、いろんな感情が交わる曲でもあります。この曲を初めて弾いたのは、広上淳一さん指揮の京都市交響楽団とだったのですが、プロのオーケストラとの共演も、日本で協奏曲を弾くことも初めてだったので、とても緊張して、いろんな箇所でミスをしてしまいました。そのときに間違えた部分を弾くときは、いまでもドキドキします」 実際、ギタリストにとって難しい曲だという。 「まず、技術的に難しい部分が全部ソロなんです。ギターのソロが際立つところが難しく書かれているのでミスできません。あとはやはりどのように“スペインの魂”を表現するのかが悩みどころですね。スペイン風に演奏しようと思うと、どうしても誰か他人の真似っぽくなってしまう気がして」 そんな悩みを解いてくれたのが、ロドリーゴとも親交のあったスペインの巨匠ギタリスト、ぺぺ・ロメロだった。 3年前に半年間、スペイン・バレンシアに近いアリカンテのギター・マスターコースに通った。 「人と話したり、街を歩いたり。そこで感じたこと、見たことを、スペインの音楽を通して共感し、発見できることが勉強でした」 そのマスターコースで、ロメロに「アランフェス協奏曲」の手ほどきを受けた。 「いまのままでいい、と言っていただきました。そのうえで、もっとスペイン風にするにはラスゲアード(フラメンコのストローク奏法)をこういうリズムで取るとよいとか、いくつかのことを教えてくださって。ロドリーゴの言葉を直接聞いていたぺぺの言葉だったのでかなり自信になって、それからは少しうまく弾くことができるようになりました。音楽的な解釈はほとんど変わっていないのですが、自信を持つだけで音楽が変わってくる。それがわかって、この曲だけでなく、自分の解釈に自信を持とう、という気持ちに変わるきっかけにもなりました」 ロメロからは、ロドリーゴ自身の「アランフェス協奏曲」の解釈も教えられた。死産だったわが子を思う深い悲しみの音楽でもある美しい第2楽章。有名な主題の冒頭の「ド#シド#ー」という長2度を行き来するモティーフは、生と死の境を意味するのだという。ギターのカデンツァの前の部分では、同じモティーフが短2度で出て明滅する。 「ロドリーゴは、音ひとつで生にも死にも変わる、裏返したらまったく違うことになる、そんな意味を込めた音型だとおっしゃっていたそうです」 その第2楽章冒頭、イングリッシュ・ホルンのソロを伴奏して和音を弾き始める瞬間は、とても幸せだそう。 「すごく美しいソロなので。そして、私のカデンツァが終わったあとに、同じメロディがトゥッティで出てきたときの感動! 日本のオーケストラはどこも素晴らしいので、それをすぐ近くで体験できるのは贅沢だなと思っています。先輩たちがよくおっしゃるのですが、ギタリストが一流のオーケストラと協奏曲を弾く機会がこんなにたくさんあるのは日本だけです。いつも感謝の気持ちで弾いています」 今年、再度スペインに留学する予定。さらにその後は、スペインとドイツを拠点に、勉強を続けながらの活動を考えている。「そのほうが自分に厳しくできるから」という。 「日本だと誘惑が多いのです(笑)。勉強するには、いろんな先生に出会えるヨーロッパのほうがいいと思いました。ドイツを選んだのは博士号を取りたいから。演奏で博士号を取れるのはアメリカとドイツだけなんです」 8月には、川口リリア音楽ホールで新たに始まる「ダ・ヴィンチ音楽祭」(芸術監督=濱田芳通)で、ルネサンス、バロック期の作品に初挑戦。今後も継続的に取り組む予定だという。現状に甘えない姿勢が素敵な人だ。

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