eぶらあぼ 2019.5月号
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1767月+夏の音楽祭(その1)の見もの・聴きもの2019年7月の曽そし雌裕ひろかず一 編●【7月の注目オペラ公演】(通常公演分) 今年は7月にはもう通常公演を行わない劇場が増えている。そのため、特記すべき注目公演もそれほど多くはなく、ドミンゴ(今やバリトン歌手として完全復活)の出演する、バーデン=バーデン祝祭劇場のヴェルディ「シモン・ボッカネグラ」、テアトロ・レアルのヴェルディ「ジョヴァンナ・ダルコ」のほか、エッセン歌劇場でネトピルの振るモーツァルト「コジ・ファン・トゥッテ」やドヴォルザークの「ルサルカ」、ガーディナーの振るモーツァルト「フィガロの結婚」(英国ロイヤル・オペラ)、それにロンドン響でラトルの指揮するヤナーチェク「利口な牝狐の物語」といったところだろうか。●【7月の注目オーケストラ公演】(通常公演分) 7月のオーケストラ通常公演もそれほど公演数が多くなく、ウェルザー=メストが珍しくも登場するシュターツカペレ・ドレスデン(F.P.ツィンマーマンのヴァイオリン独奏によるマルティヌーのヴァイオリン協奏曲第2番が聴きもの)、ネトピルの振るエッセン・フィル、ケント・ナガノがヴァイオリンのコパチンスカヤと共演してリゲティのヴァイオリン協奏曲を演奏するミュンヘン・フィル、同じナガノが今度は夫人の児玉麻里とシェーンベルクのピアノ協奏曲で共演するSWR響、ルイージ指揮のフィルハーモニア・チューリヒあたりが注目公演として挙げられる。●【夏の音楽祭】(7月分)〔Ⅰ〕オーストリア 「ザルツブルク音楽祭」。7月に恒例の「Ouverture spirituelle」シリーズの今年のテーマは「Lacrimae」(涙)。ピアノのレヴィット、古楽の雄ジョルディ・サヴァール、ヘレヴェッヘ指揮のシャンゼリゼ管等が演奏する「Lacrimae」にちなんだ作品はどれも要注目。ケルビーニの「メデア」をヘンゲルブロックとウィーン・フィルのコンビで聴けるのも興味深い。演奏に賛否がありながら強烈な人気を誇るクルレンツィスは、SWR響とショスタコーヴィチの交響曲第7番を振るほか、ピーター・セラーズ演出のモーツァルト「イドメネオ」の指揮にも要注目。バリトンのゲルハーヘルが出演するリサイタルも充実のほど間違いなし。 一方、湖上オペラで有名な「ブレゲンツ音楽祭」。湖上ではなく屋根のある祝祭劇場の方では上演機会の稀な佳作オペラや新作を取り上げることが多かったが、今年はやや意表を突いて、マスネの「ドン・キショット」。これはこれで面白い。ルイージがウィーン響を振って演奏するヴェルディ「レクイエム」も聴き応えがありそうだ。シュティリアルテ音楽祭は、ピアノのエマールと古楽のサヴァールが今年も中心アーティスト。風光明媚な場所で開催されるケルンテンの夏音楽祭では、ハーゼルベック指揮ウィーン・アカデミー管以外はそれほど有名アーティストは見当たらないが、ここはまず景色に酔いしれる音楽祭。〔Ⅱ〕ドイツ 「ミュンヘン・オペラ・フェスティバル」では、まずは、キリル・ペトレンコの指揮するR.シュトラウス「サロメ」のプレミエ。これに加えてヴェルディ「オテロ」とワーグナー「ニュルンベルのマイスタージンガー」の再演は、もう「鉄板」公演以外の何物でもないが、残念ながらチケットは完売状態。ボルトン指揮、コスキー演出のヘンデル「アグリッピーナ」やペーターゼンの何やら意味ありげなタイトル(ディメンション:異なった世界)の付いた声楽リサイタルも要注目。ザルツブルク音楽祭に続いて、ゲルハーヘルがミュンヘンでもリサイタルを開く。 「バイロイト音楽祭」では、ゲルギエフ指揮の「タンホイザー」プレミエが今年の注目公演だが、それよりミーハーな(?)話題は「ローエングリン」のエルザをネトレプコがいつ歌うのか(ストヤノヴァとダブルキャストだが出演日は未発表)ということ。ストヤノヴァのホームページの出演予定から類推して、どうやら8月14日と18日の最後2公演がネトレプコ出演となる可能性が高いようだ。「シュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭」では、音楽監督のアラン・ギルバートではなく、ウルバンスキ指揮のNDRエルプ・フィルが開幕演奏会を行う。シフのバッハ「平均律クラヴィーア曲集」やコープマン指揮のバッハ・シリーズ、タベア・ツィンマーマンのヴィオラ・リサイタルも要注目公演。なお、この音楽祭に加え「ラインガウ音楽祭」「キッシンゲンの夏音楽祭」には、昨年に続き、話題のピアニスト、グリゴリー・ソコロフが登場する。「キッシンゲンの夏音楽祭」では、ネトピルがチェコ・フィルに登壇するのも楽しみ。ちなみに、ドイツで行われる極めてマニアックなロッシーニの音楽祭「ロッシーニ・イン・ヴィルトバート」も毎年紹介しているが、今年も「マティルデ・ディ・シャブラン」やレジェンド指揮者アルベルト・ゼッダの3人の孫によるトリオ・ゼッダ(ピアノ三重奏)など、意欲的な企画・公演が展開されるている。「ルール・ピアノ・フェスティバル」は5月から7月にかけて行われる長丁場音楽祭だが、さすがにピアノ名手が次々と登場する。7月も、シフ、キーシン、滑川真希、レヴィット、ブレハッチ、アルゲリッチ…と錚々たる面々。〔Ⅲ〕スイス 本文中には、特にスイスの音楽祭として記述したものはないが、スイスの7月中の音楽祭として、グシュタードの「メニューイン音楽祭」(https://www.gstaadmenuhinfestival.ch/)、ヴェルビエの「ヴェルビエ音楽祭」(https://www.verbierfestival.com/)などを紹介しておきたい。〔Ⅳ〕イタリア イタリアではローマ歌劇場の夏の企画である「カラカラ浴場跡」でのオペラ公演が面白い。また「マルティナ・フランカ音楽祭」は、例年意欲的な曲目選択で、玄人好みの音楽祭路線を継承している。今年もL.ヴィンチ(ダ・ヴィンチとは別人)の「偽りの病気」やマンフローチの「エクバ」などめったに実演に接する機会のない作品と出会うことができる。有名な「ヴェローナ野外音楽祭」には、ヴェルディ「イル・トロヴァトーレ」にネトレプコまで登場するというのがちょっと驚きだ。〔Ⅵ〕フランス 「ボーヌ・バロック音楽祭」は、相変わらず古楽系随一の夏の音楽祭。今年もアラルコン、ルセ、ダントーネ、ローレル、マクリーシュといった有名指揮者陣が勢揃いする。今年の特徴としては、ローレル指揮でベートーヴェンの交響曲第9番「合唱」が演奏されることだろうか。「エクサン・プロヴァンス音楽祭」は、ピションの指揮するモーツァルト「レクイエム」(演出付)、サロネンの指揮するヴァイル「マハゴニー市の興亡」、メッツマッハーの指揮するリーム「ヤーコプ・レンツ」がオペラ3本柱。それぞれの指揮者が、アンサンブル・ピグマリオン、フィルハーモニア管、パリ管を振るオーケストラ・コンサートも聴きもの。「モンペリエ音楽祭」では、ネーメ・ヤルヴィがエストニア響、ソヒエフがトゥールーズ・キャピトル国立管を振る演奏会に加え、ネルソン・フレイレのピアノ・リサイタルやダンディの知られざるオペラ「フェルヴァール」の上演など、見逃せない企画満載。「ラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ・フェスティバル」はピアノ好きには必見・必聴の音楽祭。〔Ⅷ〕イギリス〔Ⅸ〕北欧 イギリス「グラインドボーン・オペラ・フェスティバル」では、ティチアーティ指揮の2つのオペラ(ドヴォルザーク「ルサルカ」とベルリオーズ「ファウストの劫罰」)が面白そうだ。フィンランド「サヴォンリンナ・オペラ・フェスティバル」では、今年に限っては、地元のスタッフによる公演よりも、ミラノ・スカラ座の公演(ヴェルディ「群盗」とガラ・コンサート)、ウィーン・フォルクスオーパーの公演(J.シュトラウスの「こうもり」)の方が人気を集めそうだ。(以下次号)(曽雌裕一・そしひろかず)(コメントできなかった注目公演も多いので本文の◎印をご参照下さい)

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