eぶらあぼ 2019.5月号
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164CDSACDCDCD日本の心を歌う/中井亮一山根弥生子 20世紀音楽を弾くシューベルト:4つの即興曲、ショパン:ピアノ・ソナタ第3番/有吉亮治バッハ:オルゲルビュッヒライン/塚谷水無子平井康三郎:「日本の笛」より/山田耕筰:野薔薇、待ちぼうけ、秋風の歌/服部正:野の羊/梁田貞:城ヶ島の雨/大中恩:サッちゃんの家/湯山昭:電話/磯部俶:遥かな友に/寺島尚彦:さとうきび畑/平尾昌晃:瀬戸の花嫁 他中井亮一(テノール)秀平雄二(ピアノ)ヒンデミット:ピアノ・ソナタ第3番/バルトーク:ミクロコスモス第6巻より/プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第2番/メシアン:「前奏曲集」より/ヤナーチェク:ピアノ・ソナタ「1905年10月1日」 他山根弥生子(ピアノ)シューベルト:4つの即興曲op.90/ショパン:ピアノ・ソナタ第3番有吉亮治(ピアノ)J.S.バッハ:オルゲルビュッヒライン BWV599-644塚谷水無子(オルガン)アールアンフィニ(ソニー・ミュージックダイレクト/ミューズエンターテインメント)MECO-1054 ¥3000+税コジマ録音ALCD-9194 ¥2800+税録音研究室(レック・ラボ)NIKU-9020 ¥3000+税Pooh’s HoopPCD-1810 ¥オープンイタリアで研鑽を積み“ロッシーニ歌い”としても活躍する“旬”のテノールが、本格的デビュー盤に敢えてこのテーマを選んだだけあって収録曲が秀逸。曲によっては過去の偉大な先輩歌手へのオマージュを垣間見せているのも心憎い。幕開けの14篇(北原白秋×平井康三郎の歌曲集「日本の笛」より)から日本的な歌い回しに魅了される。かの童謡のパロディ的風刺作品である〈サッちゃんの家〉やシャンソン・コミック〈電話〉、男声合唱の定番曲〈遙かな友に〉など、ひねりの利いた名曲多し。〈さとうきび畑〉や本人のソウル・ソングらしい〈瀬戸の花嫁〉も味わい深い。(東端哲也)何とも意欲的な1枚。その曲目はヒンデミット、バルトーク、プロコフィエフにメシアン、そしてヤナーチェク。収録曲はどれも技術的、あるいは音楽的な内容の表出において難易度の高いものばかりだが、ここで山根は技術的な余裕をもって極めて懐の深く包容力のある音楽を奏でている。この演奏で聴くと、乾いていると思われがちなヒンデミットの抒情的な魅力に気付かされるが、反面プロコフィエフでは衰えを知らぬ躍動を聴き手に印象付け、その表現の幅は大層広い。メシアンの沈滞、ヤナーチェクでの和声的な妙味の表出など、只の“鋭角的な”20世紀作品集に非ず、真の名人の業を堪能されたし。(藤原 聡)ジュネーヴに留学し、現在はソロに室内楽に活躍する有吉亮治のデビュー盤。つぶやくように力なく始まった葬送行進曲が、フレーズごとに強さを増しながらテクスチュアを膨らませるシューベルトの即興曲第1番。出だしから楽譜を深く読む思慮、それを的確に音にする技量を感じる。ショパンのソナタ第3番では構成感を捕まえて、フィナーレに向かう大きな弧を描いてみせる。ロマン派のパッションを感情の迸りよりも落ち着いた流れとしてとらえ、音の美しさを保ちつつ、硬軟を使い分けながらシークエンスの変化を彩り豊かに聴かせる。その一貫した姿勢が清々しい。等身大の、充実した音楽だ。(江藤光紀)「オルゲルビュッヒライン(オルガン小曲集)」は1713年頃、バッハが20代で編纂を始めたコラール前奏曲集。教会暦に沿った全46曲は、作曲家が転職をにらんで自己アピールを狙った、渾身の作との説も。実際に、創意工夫が随所に凝らされて、内容は濃密にもかかわらず、“讃美歌集”と地味に捉えられがち。しかし、バッハ時代から残る最大級の銘器を自在に操る気鋭の名手、塚谷水無子の手にかかれば、たちまち瑞々しい色彩に包まれる。しかも一曲ごとに、全く異なる色合いを纏って。さらに、彼女は伝承史にも目配りし、礼拝で作品を耳にした往時の人々の、喜怒哀楽や息遣いまで掬い取らんとするよう。(寺西 肇)

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