eぶらあぼ 2019.4月号
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76高関 健(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団充実のコンビで独墺音楽の真価を堪能文:柴田克彦第324回 定期演奏会 4/13(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール問 東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 http://www.cityphil.jp/ いま東京シティ・フィルが好調だ。昨年末の高関健指揮の「第九」、2月の下野竜也指揮のウィーンものなど、楽曲の魅力を的確に表現した誠意溢れる好演が続いている。無類のオーケストラ・ビルダー、高関が常任指揮者に就任して4年、着実に向上を遂げている同楽団のコンサートは、間違いなく足を運ぶ甲斐がある。 新シーズンの開幕は、高関が指揮するブルックナーの交響曲第1番を軸にしたプログラム。推進力と躍動感に充ちた第1番は、同作曲家のファン以外も必ずや楽しめる音楽だし、ブルックナー指揮者として評価の高い高関と、飯守泰次郎のツィクルスで語法を会得している東京シティ・フィルのアプローチも期待できる。さらに今回はマニアにもたまらない要素がある。それは「1868年リンツ稿、新全集版」での演奏。本作には晩年に大幅改訂されたウィーン稿もあるが、フレッシュなリンツ稿を用いるケースが多い。ただし従来の同稿も2度改訂後の版。それを作曲された当初の姿に戻したのが「新全集版」だ。これは2016年に出版された最新楽譜で、聴き慣れた方は冒頭から驚かされるであろう。なお同版使用の理由を高関に訊くと「一番良いと思うから」との由。ここはブルックナーの最初のインスピレーションをぜひ体感したい。 前半はモーツァルトの《魔笛》序曲とR.シュトラウスの「4つの最後の歌」。二人の最晩年の境地を映す両傑作も見逃せない。後者のソロは森麻季。日本屈指のスター・ソプラノの清澄かつ表情豊かな歌唱も魅力だし、雄弁な管弦楽との絡みも聴きものとなる。充実した音楽を終始味わえる本公演、要注目だ。高関 健 ©StasLevshin紀尾井 午後の音楽会 ─旅─邦楽と洋楽のコラボで誘う未知への旅文:宮本 明4/18(木)「─起点─」、7/4(木)「─途上─」10/17(木)「─世は情け─(行逢ば兄弟)」、2020.1/16(木)「─人生─」各日13:30 紀尾井ホール(小)問 紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061 http://www.kioi-hall.or.jp/ 2016年に始まった紀尾井ホールの「午後の音楽会」は、クラシック音楽と邦楽が真正面から向かい合う人気シリーズ。邦楽専用の「紀尾井小ホール」(5F)を持つ紀尾井ホールならではのコラボ企画だ。2019年度は「旅」を全体のキーワードに、「起点」「途上」「世は情け」「人生」と、ドラマティックなテーマ構成の全4回。人生とは曲がりくねった道をゆく旅なのか。毎回「旅」にまつわる作品がプログラムに加わる。 旅立ちとなる4月の第1回「起点」は、ヴァイオリニストの篠崎史紀と、邦楽囃子笛方の鳳聲晴久(ほうせいはるひさ)の競演。篠崎はこのシリーズに毎年出演しているレギュラー格。海外に出ることで日本人としてのアイデンティティを強く意識するようになったという。燕尾服の裏地が着物の生地だったり、ヴァイオリンのテールピースが漆の装飾だったり、まさにこのシリーズにうってつけのアーティストだ。 プログラムはまず清元の「道中双六」。双六遊びで東海道五十三次をゆくさまを語る浄瑠璃だ。クラシックでは、ドヴォルザークがニューヨークに渡った時期の作品である「ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ」(ピアノ:入江一雄)。そして両者のコラボ曲が、江戸獅子舞の「寿獅子」(笛:鳳聲晴久、ヴァイオリン:篠崎史紀、囃子:望月太津之、望月秀幸)。門出を祝う縁起物。典型的な祭囃子と篠崎の即興的なヴァイオリンが、ジャム・セッションのようなスリリングなアンサンブルを聴かせてくれるに違いない。 他の3公演では、鶴澤三寿々(義太夫三味線)とコハーン・イシュトヴァーン(クラリネット)、仲村逸夫(三線)と高木綾子(フルート)、長須与佳(薩摩琵琶)と川本嘉子(ヴィオラ)が共演する。鳳聲晴久森 麻季 ©Yuji Hori篠崎史紀 ©K.Miura

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