eぶらあぼ 2019.4月号
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72ワシリー・シナイスキー(指揮) 新日本フィルハーモニー交響楽団ロシアの巨匠の伝統を受け継ぐマエストロが壮大に描くグラズノフ文:江藤光紀第604回 定期演奏会 トパーズ〈トリフォニー・シリーズ〉4/19(金)19:00、4/20(土)14:00 すみだトリフォニーホール問 新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815 https://www.njp.or.jp/ 新日本フィルが本拠地すみだトリフォニーホールで行う定期演奏会〈トパーズ〉、4月にはロシアの重鎮ワシリー・シナイスキーが再登場する。レニングラード音楽院で数々の名指揮者を育てた伝説の教師イリヤ・ムーシンのもとで学び、1973年にカラヤン・コンクールに優勝して国際的にデビュー。その後ボリショイ劇場の音楽監督を始め、半世紀以上にわたり要職を歴任してきた。派手さこそないが、びしっと締まったサウンドで筋の通った音楽を構築。日本のオケともロシア系のレパートリーでたびたび名演を聴かせており、着実な人気を持つ。 2016年の新日本フィルとの初共演ではショスタコーヴィチとチャイコフスキーを取り上げたが、今回は違った組み合わせのスラヴ・プロで攻めている。前半は宮田大との共演でドヴォルザークの「チェロ協奏曲」。宮田はこの曲を大の得意としており、これまでにも多くの巨匠のタクトで演奏してきた。スケールの大きな彼のチェロが、ロシアの重鎮のもとどんな色合いを帯びるのだろうか。 後半はグラズノフ「交響曲第5番」。「英雄」という別名を持つこの曲は作曲家としての成熟期に入ってきたころの作で、がっちりとした構成を豊かな楽想が彩る。雄大な第1楽章に始まり、木管楽器が可愛らしくさえずるスケルツォ、ロシア的なメランコリーを湛えた緩徐楽章、吹奏楽的なサウンドが特徴的な終楽章まで聴きどころ満載だ。近年、グラズノフはラザレフやプレトニョフ、ヴェデルニコフら、ロシア人指揮者が相次いで取り上げており、日本にもずいぶん普及したが、新たにシナイスキーが代表的交響曲で参戦する。宮田 大©Daisuke Omoriアレクサンドル・ラザレフ(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団オケとオペラ両方のファンを熱くする“将軍”のスゴ技、炸裂!文:林 昌英第710回 東京定期演奏会5/17(金)19:00、5/18(土)14:00 サントリーホール問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 https://www.japanphil.or.jp/ 来たる5月、日本フィル定期に“将軍”アレクサンドル・ラザレフがやってくる。今回の演目はユニークで、メトネルのピアノ協奏曲第2番とマスカーニのオペラ《カヴァレリア・ルスティカーナ》(演奏会形式)という、意表を突くカップリング。同団ウェブサイトによると、メトネルを提案した際にラザレフからこのオペラを推され、「マエストロ曰く『どちらもファンタジー溢れた良い組み合わせだっ!』」とのこと。 メトネルは20世紀前半に活躍したロシアの作曲家・ピアニスト。本作は彼の代表作のひとつで、19世紀ロマン派風の美しく濃厚な作風ながら、緻密で硬質なヴィルトゥオジティも効いている魅力作だ。《カヴァレリア》はヴェリズモ・オペラを代表する、1幕ものの人気演目。シチリア島の市井の人々のドロドロした愛憎劇の興奮と、要所に挟まれる絶美の旋律の感動を堪能できる。 ソリストも贅沢なメンバーが並ぶ。前半は、世界各地でメトネルを愛奏する名手エフゲニー・スドビン。強靭さと繊細さを兼ね備えた名技で、作品の真価を明らかにする。後半の主役ふたりは、“ラザレフ激推しのロシア人テノール”ニコライ・イェロヒンと、いま絶好調のメゾソプラノ清水華澄で、これまた強靭な声の饗宴(競演)が期待される。 とはいえ、本公演の中心はやはりラザレフ。かつてボリショイ劇場芸術監督も務めた彼のオペラが遂に体験できるのだ。どれほど“激アツ”な《カヴァレリア》が実現するのか? オペラファンもオーケストラファンも必見と言うほかない。ワシリー・シナイスキー ©Jesper Lindgren清水華澄 ©Takehiko Matsumotoニコライ・イェロヒンエフゲニー・スドビン ©Peter Rigaudアレクサンドル・ラザレフ ©堀田力丸

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