eぶらあぼ 2019.4月号
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43《オン・ザ・タウン》は歴史的な舞台になります。取材・文:柴田克彦 写真:藤本史昭 欧州で活躍する佐渡裕にとって、日本での主軸は兵庫県立芸術文化センターの活動、なかでも毎夏の「佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ」だ。今年はバーンスタインのミュージカル《オン・ザ・タウン》を取り上げ、兵庫で8公演、東京で4公演を行う。 同シリーズではこれまで14作を上演。今回ミュージカルを選んだのも独自の視点に拠っている。 「阪神淡路大震災の10年後に復興のシンボルとしてスタートした兵庫県立芸術文化センターの目玉企画がこのシリーズ。《カルメン》《椿姫》といった名作の一方で、バーンスタインの《キャンディード》やブリテンの《夏の夜の夢》も上演するなど、『兵庫の夏のオペラは面白い』を定着させるために挑戦を続けてきました。その中で客層が広がったのは《メリー・ウィドウ》。宝塚歌劇団や関西のお笑い文化を重ねた兵庫でしか作れない舞台で、そうした柔軟性がお客様を呼んだのだと思います。また《カルメン》のとき、あるお客様に『人が死ぬオペラはイヤ』と言われたのが今も後を引いています。それに何より、オペラからオペレッタが生まれ、ミュージカルになった流れからも、“舞台芸術としての感動”があればその作品を取り上げるべきだと思うのです」 もちろん昨年生誕100年を迎えた恩師バーンスタインへの思いもある。 「1989年に前身のバレエ『ファンシー・フリー』を指揮する際にレッスンを受け、95年に札幌のPMFで演奏会形式の《オン・ザ・タウン》を上演して作品と向き合いました。そうした流れを踏まえて、彼が101歳を迎える前にこれを上演し、バーンスタイン100歳の締めにしたいと思っています」 《ウエスト・サイド・ストーリー》の10年以上前の1944年に初演された《オン・ザ・タウン》(『踊る大紐育』として映画化もされた)は、佐渡いわく「バーンスタインが批判を恐れずに、書きたい音楽を書いた作品」だ。 「ストーリーは至ってシンプルです。ニューヨークで24時間のオフをもらった3人の水兵が女の子を探す話。一人はタクシーの運転手に逆ナンパされ、一人は博物館で研究熱心な女性と恋に落ち、もう一人は地下鉄のポスターの女性に恋をして会いに行く。そこで色々なドタバタ劇が起こります。音楽はシンプルなのに心に残るメロディが多い。ビッグバンド風のビートが効いて、ウキウキとスウィングし、ダンスナンバーもたくさんあります」 演出と装置・衣裳デザインは、英国ロイヤル・オペラ等で活躍するアントニー・マクドナルド。 「彼は、兵庫の《魔笛》で装置・衣裳、《夏の夜の夢》で演出と装置・衣裳を担当しました。とにかくセンスが素晴らしく、今回もニューヨークの絵葉書がいっぱい出てくるような舞台になりますし、マクドナルドはもともと演出家で、その後装置家として活躍するようになりました。色合いやセットにもサプライズがあります。またダンスも多いので、振付のアシュリー・ペイジと私を含めたトライアングルで舞台が作られていきます」 出演者はロンドンでの厳しいオーディションで選ばれた精鋭たちだ。 「マクドナルドがロンドンのミュージカルの聖地ウエストエンドで活躍している人たちを紹介してくれて、彼らを含めた多数の応募者の中から250人ほどオーディションし、高い要求をパスしたキャストとダンサーが選ばれました。面白いのは、《夏の夜の夢》に出たチャールズ・ライスとイーファ・ミスケリーが戻ってきてくれること。ライスはオペラ歌手で圧倒的に歌が上手く、ミスケリーは幅広い活動を行い、踊りも達者です。とにかく今回の出演者は、歌のレベルが格段に高いですし、オペラもミュージカルもダンスもこなせる人たちが集まります。加えて今年は宝塚歌劇団もこの作品を取り上げていますが、一番の違いはオーケストラ。今回は約70名のフルオケで、本作では最大編成です」 「様々なジャンルを手がける兵庫の劇場としての意義」「様々なジャンルのお客様が交錯する兵庫の活気を東京に届けたい」「いつかはワーグナーもやりたい」など、話は尽きないし、「私の理想は、阪神間のレストランか喫茶店で、おばさまたちが中腰になって『兵庫の夏のオペラ、面白いよね』と話している絵」と語る佐渡。特に東京公演は通算3作目と貴重な機会ゆえ、ぜひとも足を運びたい。Prole京都市立芸術大学卒業。故レナード・バーンスタイン、小澤征爾らに師事。1989年ブザンソン指揮者コンクール優勝。パリ管弦楽団、ケルンWDR交響楽団、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団など欧州の一流オーケストラに多数客演。2015年よりオーストリアのトーンキュンストラー管弦楽団音楽監督を務めている。国内では兵庫県立芸術文化センター芸術監督、シエナ・ウインド・オーケストラ首席指揮者。

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