eぶらあぼ 2019.3月号
91/211

88 注目ポイントとしてまず挙げたいのは、巨匠リッカルド・ムーティが満を持して放つ「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京」だ。ミラノ・スカラ座を長年にわたって率い、停滞気味だったローマ歌劇場を屈指の劇場に鍛えなおすなど、イタリア・オペラ界に君臨してきたムーティが2015年よりラヴェンナではじめたこのアカデミーは、イタリア・オペラの演奏の伝統を、実際のオペラづくりを通じて後進たちに伝えている。アカデミーがイタリアの外で本格的に行われるのは今回が初めてだが、それまで日本のオーケストラを振る機会のなかったムーティを引き寄せたのは東京春祭の功績で、06年以降共演機会を継続的に設け、信頼関係を築いたからこそ可能になったからだろう。 アカデミーではワーグナーと並びオペラの最重要レパートリーであるヴェルディに取り組んでおり、東京でも3年かけて3作品が上演される。第一弾は《リゴレット》。ムーティ自身のトーク&ピアノによる作品解説(3/28 東京文化会館大ホール)に始まり、受講する指揮者のみならずソリスト、オーケストラも指導、聴講生がその過程をつぶさに見学する。成果は4月4日の演奏会形式による上演へと結晶する(東京文化会館大ホール)。 毎年恒例のガラ・コンサートは「The 15th Anniversary Gala Concert」と題して、東京春祭が上演してきたオペラから名アリアの数々を抜粋し、これまでの歩みを振り返る(4/12 東京文化会館大ホール)。小澤が振って話題となった《オネーギン》に始まり《エレクトラ》《オテロ》などを経て、ワーグナーの楽劇に至る。06年に《オテロ》を指揮したフィリップ・オーギャンが帰ってくるほか、歌唱陣もワーグナー歌いの重鎮ペーター・ザイフェルトをはじめとする豪華な顔ぶれだ。 歌曲シリーズに出演したエリーザベト・クールマンの「La Femme C’est Moi〜クールマン、愛を歌う」は非常にユニークな公演だ(4/9 東京文化会館大ホール)。ドイツ・リートやオペラ・アリアのみならず、ミュージカルやポップス、果てはキャバレー・ソングやシャンソンまで、様々なスタイルをクロスオーバーに渡り歩きつつ、ひとつのステージに仕立ててしまおうという趣向だ。共演陣にもチェロのフランツ・バルトロメイをはじめとするウィーン・フィルゆかりのミュージシャンら、名手揃いだ。 音楽祭のクロージングを飾るのは、上野を拠点とする大野和士&都響ムーティの意欲的なアカデミーや大野&都響の「グレの歌」も 桜の季節の到来と共に上野の文化シーンを彩ってきた東京・春・音楽祭が、15周年を迎える。「東京のオペラの森」としてスタートし、今や各地に広がった地域音楽祭の先駆けとして定着したが、今年も新大型プロジェクトを始動させるなど、ますます意欲的だ。文:江藤光紀大型企画満載——15周年の東京春祭 聴きどころを一挙紹介によるシェーンベルクの「グレの歌」だ(4/14 東京文化会館大ホール)。巨大オーケストラと合唱群による2時間近いこの大作の作曲中に、シェーンベルクは無調へと移っている。まさに後期ロマン派の最後の大作といえよう。ヴァルデマール王のクリスティアン・フォイクト、トーヴェのエレーナ・パンクラトヴァといった躍進著しい実力者を主役級に起用、日本が世界に誇る藤村実穂子(山鳩)、甲斐栄次郎(農夫)が固め、語り手には大ベテラン、フランツ・グルントヘーバーと理想的な布陣が実現した。リッカルド・ムーティ©Todd Rosenbergフィリップ・オーギャン大野和士©Rikimaru Hottaエリーザベト・クールマン ©Ernst Kainerstorfer

元のページ  ../index.html#91

このブックを見る