eぶらあぼ 2019.3月号
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68渡邉康雄―ベートーヴェン ピアノ協奏曲の世界―3/17(日)14:00 紀尾井ホール問 ミリオンコンサート協会03-3501-5638 http://www.millionconcert.co.jp/渡邉康雄(ピアノ/指揮)室内楽的な対話が“弾き振り”の極意だと思います取材・文:伊熊よし子Interview ピアニスト&指揮者の渡邉康雄がベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番、第5番「皇帝」を弾き振りする。管弦楽は共演歴も長く、互いの呼吸を熟知しているオーケストラ・アンサンブル金沢。渡邉は両曲をすでにさまざまなオーケストラと弾き振りで演奏しており、いずれはベートーヴェンのピアノ協奏曲全5曲を弾き振りしたいという。 「モーツァルトとベートーヴェンのピアノ協奏曲は弾き振りが合っています。なぜ指揮者を置かずピアニストが演奏しながら指揮を行う方がいいかというと、この部分でオーケストラと密度濃く合わせたい、ちょっとした間を取りたい、オーケストラの各楽器と手に手を取りながら作品の神髄に迫りたいと、こまやかな配慮が可能になるからです。交響曲作曲家としてのベートーヴェンのオーケストラの表現を意識しながら、ピアノとオケとの対話が非常に室内楽的に密接なものとなるように弾き込んでいける。それが弾き振りの極意だと思うのです」 ピアノ協奏曲第1番は、19歳のころボストンにあるニューイングランド音楽院に留学していた時代に先生から課題として出された。 「第1番は若い学生にとってはとても難しい作品なのです。特に第3楽章が理解しにくい。それが年齢を重ねることにより、この協奏曲はベートーヴェン初期の作品のおもしろさが凝縮されていることがわかるようになる。第5番は当初第3楽章が長すぎると感じていました。でも、交響曲を指揮し、作品の生まれた時代の社会的な状況などを考慮すると、それが自然に受け入れられるようになります。父親(日本フィルの創立に尽力した故・渡邉曉雄)からは『皇帝』は指揮者に任せてピアニストはピアノに集中すべきだと言われましたが…」 今回は会場が紀尾井ホールだが、これは彼がずっと切望していたホールである。 「弾き振りをするのにもっとも適しているからです。ピアノの蓋を取っても良い音で響き、ふくよかな音がホール全体に回っていく感じ」 父の渡邉曉雄は、スコアの読み方にとてもうるさかったという。 「その精神を受け継ぎたいと思っています。ベートーヴェンは、どうしてここにこういう音符を書いたのか、休符は、強弱記号は、と考えていくと、自筆譜が無性に見たくなります。スコアを深く読み、作曲家の真意に近づく演奏をしたいからです。今回のベートーヴェンもその強い思いを胸に、全力投球します」ジャパン・ストリング・クヮルテット 名曲コンサートvol.10熟練の技で聴かせるベートーヴェン後期の孤高なる音楽文:林 昌英 ベートーヴェンが晩年に達した境地を知らしめる、後期の弦楽四重奏曲集。その力みの抜けた孤高の音楽は、やはり演奏と人生の経験を重ねた匠たちの演奏で聴きたい。そう考える人にとって待望の機会となるのが、3月の日曜、横須賀で行われる「ジャパン・ストリング・クヮルテット」の名曲コンサートである。 チャイコフスキー第3位、パガニーニとロン=ティボー第2位と、名門コンクールでの華麗な入賞歴を誇る久保陽子を中心に、久合田緑(以上ヴァイオリン)、菅沼準二(ヴィオラ)、岩崎洸3/24(日)15:00 ヨコスカ・ベイサイド・ポケット問 横須賀芸術劇場電話予約センター  046-823-9999https://www.yokosuka-arts.or.jp/©堀田力丸(チェロ)と、各々が数十年にわたり我が国の弦楽器界を牽引し続けてきた4人の名匠たち。彼らがベートーヴェンの深奥を追求するために熟練の技をつぎ込んでいる四重奏団で、その解釈の深みは他の追随を許さない。しかも今回の演目は、第12番と第14番。特別な存在感をもつ後期の2名作という、堂々たるプログラムだ。作品にも演奏にも、年輪というものの重みを体感できる時間となるだろう。Photo:林 喜代種

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