eぶらあぼ 2019.3月号
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48カブリエル・リプキン 無伴奏チェロ・リサイタル3/28(木)19:00 トッパンホール問 パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831 http://www.pacific-concert.co.jp/カブリエル・リプキン(チェロ)バッハ、カサド、リゲティ…無伴奏でその広大な世界観を描く取材・文:寺西 肇Interview 強烈な個性で変幻自在な世界観を構築するチェリスト、カブリエル・リプキン。バッハの無伴奏組曲第3、6番を軸に、カサドとリゲティの佳品を配しての無伴奏リサイタルを開く。「無限の複雑さとシンプルな表現行為の共存こそが、私のメッセージ」。常に深化を続ける、鬼才の響きの世界が体感できそうだ。 「バッハの青年期、ケーテン時代の器楽作品に秘められた神聖幾何学に彼の精神性や魅力を見出せるというのは興味深い。それらは革命的かつ哲学的であり、音楽における幾何学の究極の形と言えるでしょう。一方、民俗的な主題や伝統的な舞曲の形式を採り入れた無伴奏チェロ組曲はユーモアや人間性、多彩な“方言”にもあふれている。バッハは宇宙の音楽(ムジカ・ムンダーナ)と人間の音楽(ムジカ・フマーナ)を見事に融合しているのです」 中でも、「核」と位置付けるのが第3番。 「前奏曲がイエスの降臨を暗示し、チェロの最低音“C”が全曲の土台に。第5曲に気高いブーレが置かれ、若々しい精神を強調します」 対して、「一種の非宗教的なグロリア」と言うのが第6番。 「一部のヴィオール属にみられる共鳴弦を模したエコーが効果的な前奏曲、精巧な装飾音を伴うアルマンド、いくらかポリフォニックな印象も与えるクーラント、聖歌隊のために書かれたかのようなサラバンド、ケルト風のブーレ、野趣あふれるジーグ…。舞曲に内在する民俗性と精神性の美しく穏やかなぶつかり合いが感じ取れます」 さらに、併せてカサドの組曲とリゲティのソナタにも、「同様のぶつかり合いが見られる」と断言。 「大戦後の現実のなかで書かれた両作品では、共に民俗性の原点に立ち戻り、それを現代の音楽形式へと再構築しています。物語とその表現、各楽章のコントラストを際立たせる語法、過去の文化遺産に対する惜しみない敬意などの点において天才的で、両作品は互いに関連し、バッハへも繋がります」 ロシア系の両親のもと、イスラエルに生まれ、6歳でチェロに出会い、「男の子ための大きなヴァイオリンだ!」と熱中。数々の登竜門で実績を重ね、輝かしいキャリアを築いたが、23歳から3年間、演奏活動を休止した。 「実は、とても活動的に過ごし、常にチェロを弾いて新たなことを学びました。そのゴールは、私からステージや聴衆、演奏家の地位などを排除した時、何が残されるのかを知ることでした」 これまで、数々の斬新な挑戦を続けてきたリプキン。近く、演奏をライヴやオンライン、映像で発信する施設「コンサート・ラボ」をオランダに創設する。 「音楽体験には、物理的な演奏会とデジタル技術を結ぶ架け橋が必要。ここは、深遠な音楽探検の拠点となるでしょう。その向こうには、この楽器の熟成と共に、自分も音楽的に成長するという大いなる目標があるのです」曽根麻矢子 プロデュース チェンバロの庭 vol.3 〈バッハの庭〉バロック・サロンのラストはバッハをメインに文:オヤマダアツシ チェンバリストの曽根麻矢子、古楽愛好家のナビゲーターである朝岡聡が、愛情を込めて“しろ様”と呼ぶ、白を基調とした美しい二段鍵盤チェンバロと共に繰り広げる“花咲く芸術”の世界。それが「チェンバロの庭」というコンサート・シリーズ。その3回目であり最終回となる今回は、満を持してのJ.S.バッハがテーマに選ばれた。「フランス組曲」や「イタリア協奏曲」「イギリス組曲」ほか、さまざまな国(音楽)からの影響を受けた作品をメインに、先輩作曲家のフローベルガーや、同時代3/28(木)19:00 Hakuju Hall問 Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700 https://www.hakujuhall.jp/ ©神尾典之を生きたラモーの作品なども演奏。 さらには、写真や絵画などをスクリーンへ投影しつつ、その時代や作曲家について楽しく語る2人のトークも欠かせない。そこで繰り広げられる世界は、まるで招待された「庭園」でのんびりと音楽を聴き、愉快な会話に耳を傾けるサロンのような雰囲気だ。美術ファンや歴史ファンにもおすすめできるバロック音楽のコンサートなのである。

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