eぶらあぼ 2019.3月号
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38大スター競演の豪華プロダクションから20世紀オペラの名作まで。シーズン後半ラインナップも魅力満載!文:加藤浩子 例年にも増してスターが数多く登場し、話題の新制作も続々のMETライブビューイング。シーズン後半も、魅力的な演目が目白押しだ。 新演出となるチレア《アドリアーナ・ルクヴルール》は、18世紀のパリに実在した大女優を主人公にした、まさに「プリマドンナ・オペラ」。その時々のスターが演じてきたが、今回は満を持してアンナ・ネトレプコが登場する。艶やかでしっとりし、重力もあって心に響く今のネトレプコの声はこの役にぴったり。相手役のピョートル・ベチャワ、恋敵役のアニータ・ラチヴェリシュヴィリも適材適所で、3人のケミストリーは現地で大評判になった。当時の劇場を舞台裏まで再現したデイヴィッド・マクヴィカーの壮麗細緻な演出も、豪華な衣裳ともども見ごたえ満点だ。 ビゼー《カルメン》は、METを代表する大人気プロダクション。フラメンコも散りばめたリチャード・エアのダイナミックな演出は、何度見ても引き込まれる。カルメン歌いとして人気上昇中のクレモンティーヌ・マルゲーヌと、最高の当たり役ドン・ホセを演じるロベルト・アラーニャの激突は必見だ。 ドニゼッティ《連隊の娘》は、ロマンティックなラブコメディ。人物がみな生き生きと楽しげなローラン・ペリーの演出は、本作に新しい風を吹き込んだ。ハイC連発のトニオ役を歌うハヴィエル・カマレナは、今最高にしびれる高音を聴かせてくれるテノールだし、ヒロインのマリーを歌うプレティ・イェンデは、新たなベルカントの女王になりそうな魅惑の若手。公爵夫人役ステファニー・ブライズの怪演ぶりも大いに楽しみだ。 ワーグナー《ワルキューレ》は、超大作《ニーベルングの指環》随一の人気作。映像プロジェクションや巨大な可動板を駆使したロベール・ルパージュの壮大な演出を、大スクリーンで存分に堪能できる。クリスティーン・ガーキーら第一線のワーグナー歌手が集結するのに加え、ワーグナーの聖地バイロイトでも絶賛されるフィリップ・ジョルダンの華麗な指揮も必聴だ。 プーランク《カルメル会修道女の対話》は、フランス20世紀オペラの金字塔。フランス革命の恐怖政治の犠牲になった修道女たちの実話が、透明度の高い音楽で描かれる。オペラというより受難劇のような作品だが、ガラスの錨が心に降りてくるような深い余韻は忘れがたい。イザベル・レナード、エイドリアン・ピエチョンカなど旬の歌手たちが顔を揃えるが、いちばんの期待は今シーズンよりMETの音楽監督に就任したヤニック・ネゼ=セガンの指揮だ。METデビュー作《カルメン》をはじめ、今シーズン現地公演で絶賛されたドビュッシー《ペレアスとメリザンド》など、フランス・オペラは得意中の得意。繊細さと情熱が同居する彼の音楽性が、プーランクの天才的な音楽を発火させる瞬間を体験したい。METライブビューイング2018-19後半の見どころ&聴きどころ※METライブビューイング2018-19の詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。 http://www.shochiku.co.jp/met/《カルメル会修道女の対話》 ©Ken Howard/Metropolitan Opera《アドリアーナ・ルクヴルール》 ©Vincent Peters/Metropolitan Opera

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