eぶらあぼ 2019.3月号
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36ケの中から浮かび上がったり、埋没していったり。ソロとトゥッティの距離感やアンサンブル感なども前述の音風景を作るファクターとなってゆきます」 交響詩「富士山」のようなものを書くのは得意ではないと笑う野平。三部作も、「静岡」を描写的に表現するものではない。ただ、前作では唯一、最後に静岡の県鳥サンコウチョウの声が登場して曲を閉じた。第2作もその鳥のパッセージで始まる。1曲目から2曲目、2曲目から3曲目へ、指向性を持ったつながりの中に「一曲一曲が解き放たれてゆく」(野平)。 すでに第1作のスコアが、近日中にフランスの出版社アンリ・ルモワンヌから出版されることが決まっている。世界への発信という点で、このプロジェクトに、より大きな価値を与える、意義ある施策だ。 この三部作を自らの創作の集大成と位置付けている。 「いまの自分が考えていることを全部吐き出すわけですから、その意味では作曲はいつも集大成です。ただ、もちろんこれで終わりではありません。一作ごとにいつも新たな荒海に乗り出すつもりで、その場で生成されてくる音楽を大切にしたい。先に行く道はそれしかないので」 自分の内から湧き上がる声に耳をすます、と言い換えてもよいだろう。創作者が心に刻むべきすべての言葉がすがすがしい。 静岡から世界へ。作曲家・野平一郎が昨年から3年がかりで取り組んでいるのが、オーケストラのための三部作「静岡トリロジー」だ。年に一作ずつ新作を初演する。静岡のグランシップ(静岡県文化財団)が、2020年東京オリンピック・パラリンピックへ向けて企画した文化プログラム「NHK交響楽団×野平一郎プロジェクト」の核となる作品。昨年3月の第1作「記憶と対話」に続き、このたび第2作「終わりなき旅」が、野平自身の指揮により世界初演される。 曲名は、文学的な「標題」というより、作品の構造をひもとくキーワードと考えてよさそうだ。 「3曲をひとつの大きな流れとして構成しています。今回は、音の作る風景がどんどん入れ替わってゆく様子を、ひとつの『旅』と捉えました。ただ、実は前作の『記憶』というテーマも1曲目に限ったものではなく、今回もさまざまな音風景の中に、前作がフラッシュバックのように戻ってくる。そのようにして、3曲それぞれが、うまい具合に独立しながら、ゆるくつながってゆく。そのつながりのために、これらのキーワードがとても重要です」 三部作は、回を追うごとにオーケストラの編成と演奏時間を拡大してゆく。これは委嘱者グランシップの要望によるプラン。音楽史を辿りながら各時代の名曲を組み合わせるのが、プロジェクトのもうひとつの軸なのだ。第1作は小編成の弦楽オケによる約10分の作品でバッハ、ヴィヴァルディと。今回は2管編成の約20分の作品となる予定で、モーツァルトの交響曲などとの組み合わせ。 「編成と時代のクレッシェンド。未来への指向性です。第2作は協奏交響曲風で、ソロ楽器群(フルート、クラリネット、ホルン、ヴァイオリン、チェロ)がオ静岡トリロジーⅡ「終わりなき旅」について語る取材・文:宮本 明interview 野平一郎Ichiro Nodaira/作曲、指揮NHK交響楽団 × 野平一郎プロジェクト シリーズⅡ〜N響メンバーによる古典派編 + 野平一郎 新作静岡トリロジーⅡ「終わりなき旅」〜3/24(日)15:00 グランシップ(中)問 グランシップチケットセンター054-289-9000http://www.granship.or.jp/©相田憲克

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