eぶらあぼ 2019.3月号
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34 「スイス・ロマンド管は、サヴァリッシュに培われたドイツもののレパートリーでも優れた技量を発揮します。マーラーの6番には“悲劇の持つ美”があり、中でも美しいアンダンテの第3楽章がキーになります。同楽章は、あらゆるものに対する愛と諦めが込められた、いわば“絶望の讃歌”です。また私は、第2、3楽章のスケルツォ→緩徐楽章の順番は変えません。それはマーラーがベートーヴェンの『第九』と同じことを企図したと考えているからです。第1、2楽章のリズムの繰り返しも、第1楽章で提示されたテーマが第2楽章で解決しない点もそう。さらに第1楽章は、妻アルマのテーマが出てきて、男女が融合するかのように見えるのですが、私は愛の生活の終焉、人間の関係性の崩壊を告げるものと捉えています。だからこそ前半を人生の脈動溢れるメンデルスゾーンにしました。ただこの曲は、皆さんが思っている以上に深く、燃える要素を持った作品。ソロを弾く辻彩奈さんは、演奏を聴いた際に特別なものを感じさせてくれましたし、まさにそうした力強い演奏をしてくれると思っています」 ノットは「二つで一つの大きなプログラム。2018年に迎えた楽団の100周年を日本で祝う内容であり、リスクを怖れずに美的センスを優先した選曲」とも話す。その意欲漲るプログラムを、ぜひ通して味わいたい。 東京交響楽団の音楽監督として顕著な成果を挙げている世界的指揮者ジョナサン・ノットは、この4月、スイス・ロマンド管弦楽団を率いて、コンビ初の日本ツアーを行う。 彼は2017年1月、同楽団の音楽監督に就任した。 「素晴らしい歴史を持ったオーケストラ。フランス語圏が本拠ですから、その言語に根ざした繊細で流麗な感覚や色彩感を有していますし、メンバーは才能豊かで意識が高く、聴衆に物語を語りかける能力があります」 今回のプログラムの一つは、ドビュッシーの「遊戯」、ピアノと管弦楽のための幻想曲、ストラヴィンスキーの3楽章の交響曲、デュカスの「魔法使いの弟子」(4/9)。ノットが「希望が叶った」と喜ぶ、来日公演には稀なラインナップだ。 「多くの初演を行ってきた楽団の遺伝子と豊富な音色のパレットを生かした、エモーショナルでスピリチュアルかつ力強い、正統的なフランス音楽を聴いていただくプログラムです。ドビュッシーの2曲は私が大好きな作品。本来3人のダンサーが踊る『遊戯』には、繊細ななめらかさがあります。幻想曲は卓越したテクニックと豊かな色彩感を持った奏者が必要なのですが、今回ソロを弾くフランスのピアニスト、ジャン=フレデリック・ヌーブルジェは、それに叶うスペシャルな奏者です。ストラヴィンスキーの交響曲は、当楽団が歴史的な関わりを持つ重要なレパートリー。ロシアものもまた楽団の伝統であると同時に、彼はフランスのイディオムを連想させる作曲家でもあります。この曲は、喜びに溢れていながら、戦争や人間臭さを想起させる作品です。デュカスは天才的な作曲家。『魔法使いの弟子』は、独特の色気を湛えたメロディやハーモニーが知的な喜びを与えてくれます」 もう一つのプログラムは、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲とマーラーの交響曲第6番「悲劇的」(4/14)。意欲的なプログラムで、楽団創立100周年を祝う取材・文:柴田克彦interview ジョナサン・ノットJonathan Nott/指揮ジョナサン・ノット(指揮) スイス・ロマンド管弦楽団4/9(火)19:00 サントリーホール問 カジモト・イープラス0570-06-99604/14(日)14:00 大阪/ザ・シンフォニーホール問 ABCチケットインフォメーション06-6453-6000http://www.kajimotomusic.com/他公演 4/10(水)東京文化会館(都民劇場03-3572-4311)、4/12(金)愛知県芸術劇場コンサートホール(CBCテレビ事業部052-241-8118)、4/13(土)東京芸術劇場 コンサートホール(東京芸術劇場ボックスオフィス0570-010-296)©Guillaume Mégevand

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