eぶらあぼ 2019.3月号
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176CDSACDCDCDザ・スペイン/河野智美ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第11番「セリオーソ」&第15番/クァルテット・エクセルシオドゥセク:「祈り」~ピアノのためのグランド・ソナタ/佐藤祐介ノクターン/ヴァンゲリスアルベニス(河野編):アストゥリアス、グラナダ/タレガ:アラビア風奇想曲、アルハンブラの想い出/グラナドス(河野編):オリエンタル、ビリャネスカ/ファリャ:粉屋の踊り 他河野智美(ギター)ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第11番「セリオーソ」・第15番クァルテット・エクセルシオ【西野ゆか 山田百子(以上vn) 吉田有紀子va 大友肇vc】ドゥセク:ピアノ・ソナタ第29番、グランド・ソナタ~ピアノのための「祈り」、「12の段階的なレッスン」より佐藤祐介(ピアノ)ヴァンゲリス:ノクターナル・プロムナード、見知らぬ男、ムーンライト・リフレクションズ、海辺の少女、ロンギング、炎のランナー、満たされない想い、1492 コロンブス、メリアのために 他ヴァンゲリス(ピアノ) 他アールアンフィニ(ソニー・ミュージックダイレクト/ミューズエンターテインメント)MECO-1053 ¥3000+税ナミ・レコードWWCC-7888 ¥2500+税カメラータ・トウキョウCMCD-28363 ¥2800+税ユニバーサル ミュージックUCCL-1210 ¥2500+税瑞々しくも落ち着きある風格を備えた河野智美のスペイン・ギター名曲集。中音域のなんともふくよかな美しい音色はこのギタリストの美点だが、それに加えて自身の編曲による「オリエンタル」や「ビリャネスカ」に聴く声部の弾き分けもまた卓越。「三角帽子」の粉屋の踊りでのダイナミックなストロークとゴルペ奏法にも感嘆。ゆったりした運びで詩情豊かに綴られる「アルハンブラの想い出」もまた秀逸で、この1枚に河野の幅広く豊かな音楽性がたっぷりと詰まっている。よくあるスペインのギター作品集、と思うなかれ。それらより一頭地を抜く存在感を誇る出来栄えだ。(藤原 聡)エクセルシオのベートーヴェン録音も全曲制覇間近となってきた。登頂までにはまだ最晩年の作品群という難所が待ち受けているが、機が十分に熟していることは、「セリオーソ」冒頭の旋回音型にみなぎる気迫からも伝わってくる。考え抜かれたアーティキュレーションとテンポがパッションとバランスを取りながら、明快な作品像を打ち立てていく。15番ではかみしめるような冒頭の主題提示から風格が漂い、鮮やかなコントラストによって記念碑的に構築された第3楽章、終楽章への移行で見せるヴァイオリンの見得など、印象的な場面を次々と披露しながら、ラストに向かって解き放たれていく。 (江藤光紀)大胆かつ繊細、時空を超えた先鋭的なアプローチを続ける若き鬼才ピアニスト、佐藤祐介が、19世紀初めにヨーロッパ中で人気を博したボヘミア出身の作曲家、ヨハン・ラディスラウス・ドゥセク(1760〜1812)に対峙した。その作風はメロディアスかと思えば、厳格な対位法に基づいたり、意表を突いた転調を伴ったりと独創性の極み。佐藤は技巧に任せて弾き飛ばすようなことをせず、フレーズひとつにも気持ちを込めた丁寧なアプローチで、今日ではほとんど顧みられなくなった作品群へ新たな命を授ける。特に、ソナタ「祈り」の緩徐楽章での、余韻の残る優しいタッチが、聴く者の琴線に触れる。(寺西 肇)映画音楽の分野でも巨匠的存在のヴァンゲリスの、初となるグランド・ピアノのためのオリジナル作品集。初披露となる11曲に加えて、『炎のランナー』『ブレードランナー』など代表作の新編曲も収められている。“エレクトロニカの父”と称せられる通り、壮大なシンセサイザー・サウンドを映画界にもたらした彼だが、今回は、シンプルながら深い魅力にあふれた旋律線を前面に出し、新境地を開拓。常に透明感ある美音が、75歳を迎えた巨匠の、ピアニストとしての非凡さを知らしめる。かたや、リバーブや薄く重ねたシンセ音で、響きの空間を自在に操るなど、ヴァンゲリスらしさも全篇に溢れている。(笹田和人)

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