eぶらあぼ 2019.2月号
39/171

36ローター・ツァグロゼク(指揮) 読売日本交響楽団伝統の演目に新たな歴史が生まれる文:柴田克彦第585回 定期演奏会 2/22(金)19:00 サントリーホール問 読響チケットセンター0570-00-4390 https://yomikyo.or.jp/ オーケストラの伝統と指揮者の持ち味の佳き融合…そうした理想的なケミストリーを予感させるのが、2月の読響定期だ。指揮は名匠ローター・ツァグロゼク。1942年ドイツ生まれの彼は、ライプツィヒ歌劇場、シュトゥットガルト歌劇場等で先進的な手腕を発揮し、デッカの退廃音楽シリーズの録音でも高評価を得ている。読響とは2016年に初共演。ブラームス等のお国もので堅牢かつ力感に充ちた演奏を展開し、好評を博した。 今回のメインは、ブルックナーの交響曲第7番(ノヴァーク版)。読響にとっては、マズア、レークナー、朝比奈、尾高、G.アルブレヒト、スクロヴァチェフスキ、カンブルラン、下野ら所縁の深い指揮者のもとで演奏してきた特別な作品だ。これを、ドイツの伝統に根ざしながら、明晰で贅肉のないアプローチを身上とするツァグロゼクが振るとなれば、骨組みが明確で引き締まった、それでいて味わい深い快演が、耳に新たな喜びを与えてくれるであろう。 またリームの「Ins Offene...」の日本初演も行われる。同曲は客席側の5つの場所に楽器が配置されるという興味深い作品。カンブルランのもとで多様な現代曲を咀嚼してきた読響と、現代ものを得意とするツァグロゼクの特質が相まった、説得力抜群の表現が期待される。 なお本公演は、日下紗矢子がコンサートマスターを務める予定。08年からベルリン・コンツェルトハウス管の同職にある彼女は、首席指揮者だったツァグロゼクと4年間仕事を共にしている。それゆえ今回は、マエストロの意が高機能の読響にあまねく反映された演奏となるに違いない。ローター・ツァグロゼク ©読響ダニエル・ハーディング(指揮) マーラー・チェンバー・オーケストラ鮮烈で生気漲る21世紀のモーツァルト文:柴田克彦3/14(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール問 東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999 https://www.operacity.jp/ 2006年10月、ダニエル・ハーディング率いるマーラー・チェンバー・オーケストラ(MCO)は、日本でモーツァルトの後期三大交響曲=第39~41番を披露した。それは、コンパクトな編成にピリオド奏法を採り入れながらキビキビと進む、刺激的な演奏だった。だがそれでいてロマン派の大曲同様の充足感を味わった。情報量の多さと表情の豊かさがそう感じさせたのだ。 あれから13年、当コンビは全く同じプログラムで東京オペラシティに還ってくる。1975年英国生まれのハーディングは、いわゆる“ニューカマー”指揮者陣のトップランナー。現在パリ管とスウェーデン放送響の音楽監督を務め、複数の楽団の来日公演や新日本フィル等を通じて日本でも周知の存在だ。97年にアバドのもとで創設されたMCOは、世界20ヵ国から集まった第一級の音楽家45名を中心に活動している精鋭集団。意思の疎通が容易な編成で、皆が自発性を発揮しながら、緻密かつ躍動的な表現を聴かせる。98年から2011年まで首席指揮者や音楽監督を務め、現在は終身桂冠指揮者の地位にあるハーディングとは、互いを熟知した間柄。彼にとってMCOは自分の意思を最も反映できる楽団と言っていい。 16年パリ管の音楽監督に就任後、ハーディングの指揮は変化し、持ち前の鮮烈な音楽に、しなやかな呼吸感や自然に湧き出る確信性が加わった。そんな今の彼が、旧知にしてビビッドなMCOを振ると、いかなるモーツァルトが生まれるだろうか? しかもホールはMCOの編成と古典派交響曲に最適の空間。13年ぶりの登場への期待は限りなく大きい。ダニエル・ハーディング & マーラー・チェンバー・オーケストラ ©Peter Fischli-Lucerne Festival

元のページ  ../index.html#39

このブックを見る