eぶらあぼ 2019.2月号
164/171

161政法上の制裁を可能にするメディア規制法、舞台芸術の上演内容について事前に検閲を受ける必要があるシンガポールなど、いま同様のことが世界各国で起こっているのである。 今年のIEフェスでは、若手のアーティストに「新作では政府批判はするな、全裸もだめだ」と通達を出し、ダンサーから「どっちの味方なんだ!」と反発もあったという。しかしいざ本番が始まると、ニヴ&オーレン『サード・ダンス』という「ゲイのカップルが全裸でプラプラさせながらも純粋な愛を描いた作品」をそのまま上演させた。「これは30年前の作品の再振付作品だからしょうがない」という名目でフェスは作品をかばい、押し通したのだ。さらにはシンポジウムによって、世界中から集まった200人を越えるディレクターに対して「愛国文化法案」の問題を可視化して共有した。表面的には従うフリを見せながらシタタカに抵抗する、フェスの矜持を見せていたのである。 愛国文化法案には、イスラエルの様々なジャンルのアーティストが反対の共同声明を出し、署名も広がり、現地の新聞も「最も恥ずべきもののひとつ」と攻撃している。 アートは自らの自由を手放してはならない。しかし取り上げようとする力は、不意に、あるいはそっとやってくる。アーティストは、いまこそその真価が問われる時代を迎えているのだ。第52回 「愛国文化法案」、それは不意にやってくる 平成最後の正月。今年もよろしくお願いします。 さて昨年の年末に行ってきたイスラエルのダンスフェスティバル『インターナショナル・エクスポージャー(IE)』について語ろう。音楽におけるイスラエル・フィル同様、ダンスにおいてイスラエルは世界で確固とした地位を得ている。しかし昨年、イスラエルダンスを支える大黒柱の2カンパニーに、そろって異変が起こった。バットシェバ舞踊団を世界的なカンパニーに育て上げたオハッド・ナハリンが芸術監督を引退(創作は続ける)。双璧の人気を誇るインバル・ピントはカンパニーを去る決断をした。結果的に今年のIEでは初めてバットシェバ舞踊団の公演はなく、インバル・ピントは個人クレジットの作品『フーガ』を上演した。 しかし今回さらに驚かされたのは、シンポジウムがあったことだ。このフェスに18年間通っているが、初である。しかもテーマは「検閲とボイコット」。その背景にはイスラエルの文化大臣が推進している「愛国文化法案(Loyalty-in-culture Bill)」の存在がある。 少し解説しておくと、パレスチナ問題などのイスラエル政府が抱える諸問題を批判する作品を、多くのイスラエル人アーティストが作ってきた。しかし政府も社会も「アーティストには自由に表現する権利がある」として尊重してきた。IEも外務省の助成で行われるが、それでも政府批判の作品を積極的に紹介してきたのだ。 しかし今回の「愛国文化法案」は、イスラエル政府を批判したり、国旗などを侮辱する作品やアーティストを許さない。従来、財務省の管轄だった助成金の権限を文化省に移管させ、一元的に管理して、助成金を盾に政府の意に反するアーティストを締め上げようとしているのだ。先月、韓国政府がブラックリストを作って助成金の締め付けをしていた件を書いたが、2010年にハンガリーで可決された行Proleのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com/乗越たかお

元のページ  ../index.html#164

このブックを見る