eぶらあぼ 2019.1月号
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36世界最高レベルのコンクールの覇者の“今”を聴く文:高坂はる香 アメリカ、テキサス州フォートワースで4年に1度開催される、ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール。冷戦期、ソ連で行われた第1回チャイコフスキー国際コンクールを制し、アメリカの英雄となったヴァン・クライバーンの名を冠して、1962年にスタートした。過去の優勝者には、古くはラドゥ・ルプー、近年ではアレクサンダー・コブリンやヴァディム・ホロデンコなどがおり、日本では2009年にハオチェン・チャンと優勝を分けるかたちで、辻井伸行が日本人として初めて頂点に輝いたことで話題となった。 ヨーロッパの伝統あるコンクールと並んで、このコンクールが重要なものと認識されている理由の一つは、優勝することで当面のアメリカでの演奏活動が確実になるからだろう。3年間、多くのコンサートの機会に加えて、マネジメント契約も得られることは大きい(もちろん、その3年の経験をいかに後に繋げられるかが本人次第だということは、他のコンクールと変わらない)。クライバーンコンクールに優勝して、コンクールへの参加を最後とするピアニストが多いのはそのためだ。だからこそ、当然参加者のレベルも高い。 ソヌ・イェゴンは、17年に開催された第15回ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで頂点に輝いた。13年には仙台国際音楽コンクールで優勝しているので、日本のピアノファンには、以前から知っていた人も多いだろう。仙台の頃から誠実な音楽性に魅力があったが、今はその安定感に、より豊かな叙情性、華やかさが加わったように思う。クライバーンコンクールの舞台では、内に秘めた情熱を解き放つような音楽、歌曲が好きだという彼ならではの歌う表現、そして、室内楽やコンチェルトでの熟達したアンサンブル能力を発揮していた。 そんなソヌ・イェゴンが、クライバーンコンクール優勝以後、初めて日本ツアーを行う。リサイタルを行うのは、静岡、愛知、東京(2会場)、三重、宮城。 各会場少しずつプログラムが異なるが、コンクールでも演奏したR.シュトラウス=グレインジャー「《ばらの騎士》から〈最後の愛の二重唱によるランブル〉」や、委嘱作品課題曲であるマルク=アンドレ・アムランのトッカータ「武装した人」といった珍しい曲、彼の堅実な音楽性が生きるであろう、ブラームスのピアノ・ソナタ第2番などが主なレパートリーとなっている。また、銀座のヤマハホールの公演では、ショパンの「24の前奏曲」という大曲に挑む。 かつてクライバーンコンクールの覇者は、膨大なコンサート契約により疲弊して長いキャリアを築くことができないと言われた時代もあった。しかし近年は過去の経験を踏まえ、ピアニストのその後を見据えた適度なコンサートスケジュールやプロモーションが行われることで、優勝者たちは安定したキャリアを築いている。ソヌ・イェゴンもそんなチャンスを掴んだピアニストのひとり。ぜひ、今の演奏を聴いておこう。 ソヌ・イェゴン ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール 2017優勝者ツアー2019.1/19(土)静岡音楽館AOI、1/20(日)愛知/宗次ホール、1/22(火)武蔵野市民文化会館、1/24(木)三重県文化会館、1/25(金)ヤマハホール、1/27(日)仙台市宮城野区文化センター問 コンサートイマジン03-3235-3777 http://www.concert.co.jp/ ※ツアーの詳細は左記ウェブサイトでご確認ください。©Jeremy Enlow/The Cliburn

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