eぶらあぼ 2019.1月号
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1712016年、朴槿恵政権下で、政府を批判する文化人をリストアップして助成金などを締め付けようとしていたことが明るみになったのだ。リストには9000人を超える名前があったという。 韓国の歴代大統領は公約の中に必ず文化政策を重要な柱として組み込んできた。大統領の変遷は文化政策の変遷でもある。「政権維持に利用するためだろう」という批判はあるが、基本的に文化政策が国民生活にとって重要な柱であるという認識があればこそで、それが民度ってもんじゃないのかね。海外では文化をサポートするインスティテュートが外務省の下にあることも少なくない。ダンスは輸出産業であり国のブランディングに役立つ、という視点だ。これからのアーティストには、そういう連中を利用して生き残るしたたかさも必要だ。ちなみに昨年度の「国民一人当たりの文化予算の額」では、韓国は日本の実に7倍の額だそうである。7倍って。そんな貧困国で日本のアーティストは生き延びなければならないのだ。 もっとも、これもちょっと意地悪い目で見れば、控除によって「もともと行く人」がもっと行くようにはなるだろうが、「そもそも劇場に行く習慣自体がない層」には届かないだろう。だが本当に舞台芸術を必要としているのはそういう人々かもしれないのだ。ヨーロッパのサーカスはそういう層に強くコネクトしているのだが、それはまた別の機会に。第51回 「アーティストを社会で支えるいくつかの方法」 この原稿はイスラエルで書いている。エルサレムとテルアビブでのフェスの取材だ。オハッド・ナハリンの引退、インバル・ピントの独立など転換期にあるイスラエルダンスだが、それについては帰国してから。 さて先日ON-PAM(舞台芸術制作者オープンネットワーク)のセミナーで日本在住の韓国人研究者・閔鎭京(ミン・ジンキョン)さんがした話には驚かされた。なんと韓国では「図書と公演チケットの料金は、料金の30%、最大10万円まで所得から控除される」というのだ。これはなかなかスマートなやり方である。日本でも観客を増やす方法、特に金のない若者やアーティストの観劇をサポートする方法は様々に議論されてきた。たとえば「年間何本まで無料や割引で見られるパスの発行」などだ。劇場単位でなら実施しているところもある。しかし国単位となると、どこが費用を負担するかなどとシミったれた話になって、一向に進んでこなかった。だが所得控除なら、ちょっと税金の処理の方法を変えるだけでできそうだ。 さらにはアーティストへの労災適用といった社会的セイフティネットの拡充にも取り組んでいるという。「芸術とは、趣味ではなく労働である」という、あまりにも当然の(なのに日本ではほとんど共有されない)観点からの発想だ。ヨーロッパではアーティストの失業保険やダンサーへの医療費補助など「社会でアーティストを支えよう」という制度が先行している。しかしオレの知る限り、アジアでこれに本格的に取り組んでいる国は、日本を含め聞いたことがなかった。 もちろん韓国に問題がないわけではない。数ヵ月前に書いたように、韓国はトップが変わるとその下の組織が全部変わっていく。そのため、能力よりもコネや縁故が優先した人事が行われがちだ。さらに衝撃を与えた「ブラックリスト」の存在がある。Proleのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com/乗越たかお

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