eぶらあぼ 2019.1月号
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169アバドという指揮者を統計の数字から眺めてみる 読者にとって、クラウディオ・アバドはどんな指揮者だろうか。彼の個性が最もよく表れたレパートリー、あるいは特に印象的な解釈を残した作曲家は、マーラー、ヴェルディ、ロッシーニ、シューベルトではないかと思う。ここにさらに、ムソルグスキー、ブラームス、ベルク、メンデルスゾーンを加えることもできる。しかし、ベルリン・フィルの機関誌『128』の今冬号によると、純粋な演奏回数においては、この「重点」は実は当てはまらないようなのである。 というのは、アバドがその生涯に指揮した約3500回の演奏会において、最も多く指揮したのは、ベートーヴェンの作品だからである(712回)。これにはちょっと驚かされる。たしかに彼は、2001年のがん闘病時に、ローマで素晴らしいベートーヴェン交響曲全曲ツィクルスを振っているが(ライヴ録音が発売されている)、ベートーヴェン指揮者というイメージではない。さらに驚くのは、第2位がモーツァルト(623回)であること。こちらも、彼が特に得意とした(あるいは、演奏に飛び抜けて説得力があった)作曲家とは言い難い。一方、真打ちのマーラーは第3位で、トータルで449回。この場合、作品の平均的長さが前二者と比べて倍以上なので、「総演奏時間数」で計算し直したらトップかもしれない。同様のことは、ヴェルディについても当てはまる(223回)。それを考慮すると、第4位のブラームス(398回)、第5位のシューベルト(309回)は、よく付けているのかもしれない。面白いのは、第7位がバッハであること(197回)。これは本当に意外である。ちなみにロッシーニやムソルグスキーは、リスト(トップ17位まで)に上がってさえいない。Profile城所孝吉(きどころ たかよし)1970年生まれ。早稲田大学第一文学部独文専修卒。90年代よりドイツ・ベルリンを拠点に音楽評論家として活躍し、『音楽の友』、『レコード芸術』等の雑誌・新聞で執筆する。近年は、音楽関係のコーディネーター、パブリシストとしても活動。 一方、彼が最も多く指揮したオーケストラは、ベルリン・フィル(688回)、スカラ座管(544回)、ウィーン・フィルないしウィーン国立歌劇場管(529回)、ロンドン響(357回)である。これは予想通りだし、彼の芸術的足跡を明確に反映している。それ以外では、発足に関わったオケ、またその母体となったユース・オケが目を引く。つまり、ヨーロッパ室内管(191回)、モーツァルト管(127回)、マーラー・チェンバー・オーケストラ(91回)、ルツェルン祝祭管(76回)、グスタフ・マーラー・ユーゲント管(109回)、ECユース管(63回)である。マーラー・チェンバー・オーケストラが意外に少ないが、これはグスタフ・マーラー・ユーゲント管(設立の母体)と、ルツェルン祝祭管(中核として参加)との総数で見るべきかもしれない。面白いのは、それ以外のオケをほとんど振っていないこと。シカゴ響(147回)は、首席客演指揮者だったので多い方だが、40〜80回振っているのは、イスラエル・フィル(73回)、フィラデルフィア管(64回)、ニューヨーク・フィル(40回)のみである。以上の14楽団をトータルすると、約3100回となる。それ以外の一流オケ――ロイヤル・コンセルトヘボウ管やバイエルン放送響等――は、残りの約400回に含まれると思われる。城所孝吉 No.30連載

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