eぶらあぼ 2018.12月号
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70オリ・ムストネン ピアノ・リサイタル ~プロコフィエフの神髄を聴く~鬼才ピアニストが向けるプロコフィエフへの眼差し文:飯田有抄12/4(火)19:00 浜離宮朝日ホール問 パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831http://www.pacific-concert.co.jp/ 指揮者、作曲家、演奏家というように音楽家の役割がはっきりと分業化し、加速したのは近代にいたってからのこと。かつては創作から実演までの一切を引き受ける音楽家像は特別なものではなかったが、近現代以降の複雑な音楽作品や、多面的で大規模なコンサート・シーンにおいては、現実的に容易ならざるものがある。ただ、それをこなす稀有な才能と人望をもった音楽家は今も存在する。その数少ない一人が、1967年生まれの鬼才オリ・ムストネンだ。 作曲家として、ラフマニノフ、ブゾーニ、ラウタヴァーラらの語法を受け継ぎ、自作を含めた作品群を故郷フィンランドの主要オーケストラや、ケルンWDR響、N響などで指揮。ピアニストとしてはベルリン・フィル、ニューヨーク・フィルなどの楽団と共演し、弾き振りも行う。 そんなムストネンが主要レパートリーの一つとしているプロコフィエフの作品、それもピアノ・ソナタのみ5作を披露する注目の公演が、いよいよ日本でも開催される(第4、9、1、3、7番という曲順を予定)。張りのある研ぎ澄まされたタッチ、奥行きを感じさせる柔和な音色を駆使し、ロマンティシズムを宿した最初のソナタや、円熟期の鮮烈なダイナミズムを持つソナタ、そして最後に完成させた洗練を極めたソナタを描く。プロコフィエフの小品から協奏曲までをよく知るムストネンが、音楽家としての多層的な視点から、濃密な音楽的時間を立ちのぼらせるに違いない。©Outi Tormala日本フィルハーモニー交響楽団 特別演奏会2018 「第九交響曲」平成最後の「第九」は2大マエストロのパッション漲る名演で文:柴辻純子井上道義(指揮) 12/15(土)、12/16(日)(完売)小林研一郎(指揮) 12/21(金)、12/22(土)、12/25(火)、12/26(水)、12/27(木)問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 http://www.japanphil.or.jp/※各公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。 今年の日本フィルハーモニー交響楽団の「第九」は、日本フィル桂冠名誉指揮者の小林研一郎と、情熱の指揮者、井上道義、日本を代表する二人のマエストロの登場が話題だ。 井上は、抜群の統率力と求心力で、一期一会の演奏を大切にする指揮者。今回は、序曲「コリオラン」と組み合わせたベートーヴェン・プログラムで挑む。実は井上にとって、日本フィルは特別なオーケストラ。1976年に日本デビューした際に指揮したオケなのだ。その後はしばらく遠ざかっていたが、昨年の12月定期に続き、今年は九州公演(10都市)を指揮するなど、再び絆を深めている。「第九」のソリストは、テノールの錦織健ほか、井上と共演を重ねる実力派が揃った。合唱団は東京音楽大学(12/15)と日本フィルハーモニー協会合唱団(12/16)。「オーケストラは面白い!」と語るマエストロ。好奇心と探究心で目が輝く。そのひらめきに満ちたアプローチから、どのような演奏になるのか楽しみである。 一方、“炎のコバケン”こと小林が指揮するプログラムは、厳かなバッハのオルガン曲(独奏:石丸由佳)で始まる。ソリストは、テノールの錦織のほか、ソプラノは安藤赴美子(12/21,22)と市原愛(12/25~27)、アルトは山下牧子(全日)、バリトンは青戸知(12/21,22)、青山貴(12/25~12/27)と豪華な歌手たちが集結する。こちらの合唱は東京音楽大学(12/21,22)と武蔵野合唱団 (12/25)、そして日本フィルハーモニー協会合唱団(12/26,27)。小林の渾身のタクトから生まれる歓喜や高揚、音楽との一体感は、まさに「コバケン・ワールド」。 近年、音楽性を高め、進化を続ける日本フィルの、1年を締め括る演奏にも期待したい。井上道義 ©三浦興一小林研一郎 ©山本倫子

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