eぶらあぼ 2018.12月号
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200はず。「面白かった」だけでもいい。とにかく一行を書いてみて、あとはエイヤっと送信ボタンを押せばいい。それで世界が滅んだりはしないから、気楽にね。 愛知の講座では専用のツイッターのアカウントを作ってもらい、パスワードを受講者が共有した。ダンス公演(Aプロ・Bプロ各3公演ずつ)を観た直後、実際にレビューを書いてアップする、という超実践的な講座にした。もっとも一度に数十人が一斉にアクセスしたため、ツイッター社側が「不審な動きあり」と判断してアカウントが一時凍結されたりしたけれど、受講生は格段に上達した。全てのレビューにオレがコメントをし、書き直した後、しばらく別のことをさせる。頭をクールダウンさせた状態だと、自分のレビューが全然違う感じに見えてくる経験をしてもらうためだ。さらにオレから「作品を多角的に捉えて考察する方法」「発想をひねるだけで語彙を増やす方法」を伝授したり、「辛口コメントと悪口を勘違いしているヤツは、ただの馬鹿ではなく『友達のいない馬鹿』に見られるぞ」等の金言も伝えた。 感動は、自分だけのもの。しかし言語化することで、「自分の感動の核」が見えてくる。自分は何に感動しているのか。何に注意を払っていなかったか。そうやって次に見るとき・聞くときに、理解がさらに深まっていくのである。そしてけっこうアーティストはエゴサーチしているからね。キミの言葉は、かなりの確率でアーティスト本人に届くはずだ。ピコ太郎がジャスティン・ビーバーに届く時代なのだから。第50回 「祝連載50回! そしてレビューは憚ることなかれ」 なんと今回で、この連載は50回を迎える。クラシック音楽が中心のやんごとない本誌にあって、オレはといえば白鳥の群れに迷い込んだハシビロコウのごとく、でかい顔で無骨な内容を長きにわたって書かせていただいているわけだ。編集部と読者の皆様には本当に感謝している。これからも力の限りハシビロ的に書いていきたい。 さて皆さんは心揺さぶられるような演奏や舞台や美術に触れたとき、その感動を文字にして誰かに伝えたい、共有したいとは思わないだろうか。思うね。思うはずだ。人間は言葉によって世界を認識したい生き物だからである。しかも現代にはネットという便利なツールがあり、どんなにマニアックな趣向の人とも出会うことができる。 しかし皆が感想をネットに書き込むかというと、必ずしもそうではない。単に面倒くさい、という以上に「どうせうまく書けない」「私より詳しい人が、私よりうまく書いてくれるだろう」と二の足を踏んだり、「迂闊なことを書くと馬鹿にされるのでは」と恐怖感が先に立つ人もいる。 そんな人のために、10月に愛知県芸術劇場で「ダンス・セレクション&乗越たかおレビュー講座」があった。ポイントは評論ではなくレビューの講座という点だ。ただでさえ書ける媒体が減っている上に、ネットに舞台評すらろくに書かない「評論家」なんぞに発信力はない。それよりも一般人が速報的にアップするレビューの方が、何倍もダンスの状況に直接コミットしている。特にダンス公演は1〜3日間公演がほとんどなので、速報性が大きな役割を果たすのだ。 大事なのは、うまく書こうとしないこと。ダンスや音楽という「言葉によらない芸術について、言葉で書く」こと自体、無理と言えば無理な話なんで、うまく書けなくて当然だ。それでも芸術から何かを受け取ったあなたの胸には、書きたい気持ちが疼いているProleのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com/乗越たかお

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