eぶらあぼ 2018.12月号
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184CDCDCDCDモーツァルト!&ジャズ!/カルボナーレ・クラリネット・トリオバッハ:ゴルトベルク変奏曲/水永牧子山田耕筰ピアノ作品集「子供と叔父さん(おったん)」/杉浦菜々子カウンターテナーによる「冬の旅」/本岩孝之モーツァルト:《フィガロの結婚》より、《ドン・ジョヴァンニ》より、《魔笛》より/チック・コリア:ジャズ組曲/ナザレー&パスコアール&ジスモンティ:ブラジル物語/作曲者不詳:クレズマー組曲 他カルボナーレ・クラリネット・トリオ 【アレッサンドロ・カルボナーレ ペルラ・コルマーニ ルカ・チプリアーノ(以上クラリネット/バスクラリネット/バセットホルン)】J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲水永牧子(チェンバロ)山田耕筰:狐の踊り、秋の日のメロディ、子供と叔父さん(おったん)、聖福1&2、源氏楽帖、ソナチネ、日本風の影絵、牧神序曲、ポエム、ピアノのための「からたちの花」、前奏曲「聖福」、春夢 他杉浦菜々子(ピアノ)シューベルト:歌曲集「冬の旅」本岩孝之(カウンターテナー)御園生瞳(ピアノ)ナミ・レコードWWCC-7882 ¥2500+税Pooh’s HoopPCD-1801 ¥オープンディスククラシカジャパンDCJA-21041 ¥2500+税BeltàレコードYZBL-1055 ¥2500+税イタリア屈指の名手カルボナーレが、盟友たちと2016年に結成したクラリネット・トリオのアルバム。前半のモーツァルト3大オペラ楽曲は、主にバセットホルンの温かい中低音域による3声のシンプルで心地よい響きが、かえって原曲の精妙な和声の陰影を浮かび上がらせ、演奏と曲のすばらしさに嘆息。ムードが一転する後半のジャズ・ナンバーでも羽目を外すことはなく、落ち着いて楽器の魅力を伝えている。それでもチック・コリアのノリ(35秒以上の超ロング・ハイトーンも!)、クレズマーの妖しい魅力や特殊奏法など、闊達な交歓と技巧もみせていて、音楽的かつ感興豊かな快演だ。(林 昌英)水永牧子久々の新譜『ゴルトベルク変奏曲』は一言で言うと「面白くて聴き易い」演奏(勿論良い意味で)。即興的なリズムの揺らぎや意図的な右手と左手の「ズレ」、多彩な装飾音(例えば終曲の主題の再現!)、2段鍵盤とリュート・ストップの使用による驚くべき多彩な音色の表出…。昨今では半ば常識と化している反復も省略していることが多く、それも「聴き易さ」の要因。水永がお仕着せではない自身の瑞々しい感性で構築した『ゴルトベルク』はユニークで大変魅力的に仕上がっている。ライナー掲載の水永による各変奏の「イメージ」がまた楽しく、聴き手を作品世界に遊ばせるに十分。(藤原 聡)子供の日常を温かい目で描写した「子供と叔父さん」(1916)の楽譜表紙絵を用いたジャケットに導かれ、大正時代にタイムスリップ。すると聖歌やショパン、さらにはドビュッシーやスクリャービンに至る語法を貪欲に消化しながら、日本的な独自性をミックスし新しい器楽の世界を切り開こうとした山田耕筰の試みの同時代性が、鮮やかに浮かび上がってきた。それにしても、誰もが知っている作曲家のピアノ曲、しかもこのアルバムの「源氏楽帖」のように音楽的にも意味のある作品が、多数録音されないままだったのは驚きだ。演奏も自筆譜や異版を可能な限り精査し、作品像を過不足なく伝えている。(江藤光紀)フィッシャー=ディースカウやプライなど名バリトンからコントラルトのシュトゥッツマンまで様々なタイプの名唱で歌い継がれてきた「冬の旅」だが、ついにカウンターテナーによる決定盤が登場。歌い手の本岩孝之は現代曲からヒップホップ系まで異例のレパートリーを誇り、低い方はバリトンまで4オクターヴの脅威の音域の持ち主。半信半疑だった予想に反してこの作品のテーマである「若者の孤独」を残酷なまで鮮烈に描き出す。特に第11曲〈春の夢〉や第19曲〈幻〉など、暗い旅路をつかのま照らすあたたかい光のような曲がかえって涙を誘う。 (東端哲也)

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