eぶらあぼ 2018.11月号
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168CDCDCDCD「ありがとう」を風にのせて―日本名歌集―/ヴィタリ・ユシュマノフ&塚田佳男レゾナンス チェロ二重奏/安田謙一郎&藤村俊介ラフマニノフ:トロンボーン・ソナタ 作品19/イアン・バウスフィールドバッハ&カサド/大友肇中山晋平:鉾をおさめて/大中寅二:椰子の実/瀧廉太郎:納涼、荒城の月/山田耕筰:この道/文部省唱歌:我は海の子/岡野貞一:朧月夜/平井康三郎:平城山/武満徹:小さな空/小林秀雄:落葉松/いずみたく:見上げてごらん夜の星を/歳森今日子:ありがとう 他ヴィタリ・ユシュマノフ(バリトン)塚田佳男(ピアノ)ロッシーニ:チェロとコントラバスのための二重奏曲/クンマー:2つのチェロのための二重奏曲/ヘンデル:2つのヴァイオリンと通奏低音による9つのソナタ第8番/モーツァルト:ファゴットとチェロのためのソナタ安田謙一郎 藤村俊介 宮坂拡志(以上チェロ)鴨川華子(チェンバロ)ラフマニノフ:ソナタ(原曲:チェロ・ソナタ)、「6つのロマンス」より〈夜の静けさに〉、「12のロマンス」op.14より〈春の奔流〉、「12のロマンス」op.21より〈ライラック〉、〈ここはすばらしい場所〉、「14のロマンス」より〈ヴォカリーズ〉 他J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番・第4番/カサド:パルティータ、親愛なる言葉、セレナーデ大友肇(チェロ)野本哲雄(ピアノ)オクタヴィア・レコードOVCL-00682 ¥3000+税マイスター・ミュージックMM-4041 ¥3000+税カメラータ・トウキョウCMCD-28358 ¥2800+税ナミ・レコードWWCC-7878 ¥2500+税熱き思いが、全篇から迸る。ロシア出身のバリトン、ヴィタリ・ユシュマノフは美空ひばりを聴き、「日本のうた」の虜に。日本歌曲の第一人者・塚田佳男の薫陶を受け、表現に磨きをかけてきた。その成果が、当録音。塚田の詩情豊かなピアノを伴い、「朧月夜」「荒城の月」などスタンダードから武満徹による大衆歌、オリジナル曲までが、包容力ある歌声で、丁寧に歌いこなされてゆく。彼の日本語は、外国人特有の母音のくぐもりがほぼないどころか、現代には変質してしまった発音より、むしろ正統的。日本の言葉と旋律は、これほど胸に染みるのか。日本人の我々が、改めて教えられる。 (笹田和人)N響フォアシュピーラーとして活躍中の藤村俊介を、約半世紀にわたり我が国のチェロ界を牽引してきた安田謙一郎が支えるというパート分担による、師弟コンビのチェロ・デュオ。安田がつくり出す肩の力の抜けた空気感は名匠ならでは。その大きな構えに乗って教え子の藤村が充実の名技を聴かせる、親密さの中に緊張感が混じるいい距離感のコンビだ。その穏やかな愉悦感は当盤の古典的な4作にふさわしく、中でもロッシーニの技巧的ながら落ち着いた楽しさ、ヘンデルの短調の名品での堅固な佇まいから滲む美しさは印象的。名手たちの交歓をじっくり味わう、おとなの時間を。(林 昌英)バウスフィールドの類稀なる技術と音楽性に酔う1枚。ラフマニノフのチェロ・ソナタをトロンボーンで演奏するという発想が凄いが、いかにも難しいというようにはまるで聴こえず至極当たり前に聴かせるその匠の技(第2楽章のスケルツォ!)。聴くうちに元来チェロの曲だということを忘れさせるような自然さである。併録の歌曲(ロマンス)アレンジではおよそ力みがなく膨らみに富んだ滑らかなレガートの“歌”が実に見事で、有名な〈ヴォカリーズ〉の弱音などでは“トロンボーン離れ”しているような音色の妙を披露する。稀有なアルバムであり、奏者だ。 (藤原 聡)クァルテット・エクセルシオの要としてアンサンブルをまとめるチェロの大友肇のソロ・アルバム第二弾。バッハの無伴奏組曲第3番は、前奏曲からぶれることのない安定したテンポで聴き手を力強く引っ張っていく。旋律の内在的な方向感をとらえたナチュラルなアプローチは、クーラントのようなゆるやかな楽章でも生きる。たっぷりとした呼吸で表現した前奏曲など、ちょっと気難しい第4番も素材の美質を巧みに引き出した。カサド作品は耳になじむメロディー、民族的な素朴さとモダンなセンスがバランスよく配された佳作だが、ストレートな音楽性の中に時として現れる荒々しいタッチも魅力。(江藤光紀)イアン・バウスフィールド(トロンボーン)ジェームズ・アレクサンダー(ピアノ)
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