eぶらあぼ 2018.10月号
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72山中千尋 ニューヨーク・トリオ 全国ホールツアー2018 東京公演11/10(土)17:30 すみだトリフォニーホール問 プランクトン03-3498-2881※ツアーの詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。http://www.plankton.co.jp/chihiro/CD『ユートピア』ユニバーサル ミュージックUCCJ-2157 ¥3000+税山中千尋(ピアノ)ジャズに生まれ変わったクラシックの名曲たち取材・文:原 典子Interview ニューヨークを拠点に活躍するジャズ・ピアニストの山中千尋が、クラシック曲を斬新にアレンジし、自身のトリオで演奏したアルバム『ユートピア』をリリースした。桐朋学園大学を経てバークリー音楽大学に留学、高度な技術に裏打ちされたプレイでファンを魅了する山中だが、当盤はあらゆる音楽や文化に精通する彼女らしい感性が光る一枚となっている。11月からスタートするトリオ編成でのアルバム発売記念全国ホールツアーを前に話を聞いた。 「子どもの頃からクラシック音楽は身近なものでしたが、どうしてもピアノと自分との間に偉い作曲家の存在が挟まっているような違和感を感じていました。けれど、その壁を取り払って自分らしい表現ができたらと思い、ジャズでいうところの“スタンダード”と同じようにクラシック曲を取り上げて、アレンジしてみたんです。よく知られた曲から、いかに新しい面白さを引き出せるかというチャレンジでもあったので、あえて有名曲ばかりをチョイスしました」 新譜には、たしかにボンダジェフスカ=バラノフスカ(バダジェフスカ)の「乙女の祈り」、サン=サーンスの「白鳥」など、おなじみのメロディが満載。しかし山中の手にかかると、可憐な乙女や優雅な白鳥がそれまでのイメージとは異なる姿に変身する。それは予想を裏切られる快感ですらある。 「『乙女の祈り』はパッションと開放感のあるコード進行にアレンジすることで、現代風の元気な女の子の感じが出せればいいなと。『白鳥』は5拍子にして、原曲と同様にベースラインを同じパターンでの繰り返しにしました。福島に住んでいた子どもの頃、阿武隈川に白鳥がいたのですが、遠くから見たときの優雅さとは逆に、餌を持っているとものすごい勢いで襲ってきて、アグレッシヴで怖かったんです。だから私の中での白鳥は攻めているイメージ(笑)。そうやって語り手が変わることで、まったく別のストーリーになるのが、ジャズの面白さのひとつだと思います」 今年で生誕120年のガーシュウィン、生誕100年のバーンスタインの作品も収録されている。 「武満徹さんの作品も入れましたが、今作はジャズに深い関係を持つ作曲家を中心に据えたのも、自分の中でのチャレンジでした。ピアノ・トリオで演奏することで、互いに丁々発止のやり取りがあったりして、よりジャズ的な表現ができたのではないかと思います。さらにライヴでは、アルバムとはひと味もふた味も違う演奏になるでしょうね」 クラシック・リスナーの皆さんにも、ぜひ山中千尋と一緒に“遊び心のある実験”をお楽しみいただきたい。10/25(木)19:00 東京文化会館(小)問 プロアルテムジケ03-3943-6677http://www.proarte.jp/今川映美子 ピアノリサイタル パリゆかりの作曲家たち Vol.Ⅲ時空を超えて共鳴し合うピアノ曲たちの美文:笹田和人©深谷 義宣/aura.Y2 ドラマティックで雄大な表現と、色彩感豊かな音色で、聴く者すべてを魅了する実力派ピアニスト、今川映美子。「パリゆかりの作曲家たち」と題したリサイタル・シリーズ第3弾では、モーツァルトやショパン、ドビュッシーなど佳品の数々に、音楽への熱き想いを託す。 桐朋学園大在学中にウィーン国立音大へ留学、同大学院でも研鑽を積み、イタリアのサレルノ国際コンクールで最高位入賞を果たすなど、多くの登竜門で実績を重ねた。リサイタルやオーケストラとの共演など、精力的に活躍。変奏曲ばかり7曲を収録した『VARIATIONS』をはじめ、4枚のアルバムを発表し、いずれも高い評価を得ている。 今回は、完成に至った最後のピアノ・ソナタである第18番などモーツァルト2曲に、ショパンのソナタ第2番「葬送」を。さらに、19世紀の女性作曲家シャミナードの小品4曲、ドビュッシーを追憶したデュカス「牧神の遥かな嘆き」を弾いた後、ドビュッシー「喜びの島」を披露。今川の豊かな感性によって、時代を超えた作品が共鳴し合う。

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