eぶらあぼ 2018.10月号
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32 「今、指揮者としてやっていられるのは、このコンクールのおかげです。みんな(アムステルダムで1984年に行われた)キリル・コンドラシン・コンクールに優勝したからでしょ、と言うけれど、そうではありません。82年の民音コンクール(旧称)がなければ、僕はここにいません。指揮を学ぶ学生にとって憧れの存在でした。プロのオーケストラを指揮できるチャンスなんて、他に全くなかったですから」 この10月8日から本選の14日にかけて、東京オペラシティで第18回東京国際音楽コンクール〈指揮〉が開催される。 “三年に一度、世界への登竜門”とのキャッチも躍るコンクール。審査委員の顔ぶれが素晴らしい。外山雄三(委員長)、ウェルナー・ヒンク(元ウィーン・フィルコンサートマスター)、広上淳一、アレクサンドル・ラザレフ、ザリン・メータ(元ニューヨーク・フィル総裁)、カン・ドンスク(ヴァイオリン)、尾高忠明、ユベール・スダーン、高関健。 広上に話を聞く。彼の“黎明期”を記せば、82年の同コンクール(当時は民音コンクール〈指揮〉)に入選した翌年、外山に認められて名古屋フィルのアシスタント・コンダクターに就任。84年、アムステルダムのコンセルトヘボウで開催された第1回キリル・コンドラシン国際青年指揮者コンクール(審査員にハイティンクやアシュケナージ)に優勝し内外のステージで羽ばたく、となる。 「東京国際の審査員を務めるのは4度目です。健ちゃん(高関健)といつも話すのですが、教える・育てるって難しいですよね。でも大切なことです。教える側も問われます。僕が入選した頃は、音大で指揮を勉強している若者にチャンスを与えるコンクールだったのではないかな。実際82年の本選に残ったのは十束尚宏(第1位)、大野和士(第2位)、小田いまの完成度より将来伸びそうな若者、未知数の才能と出会いたい取材・文:奥田佳道野宏之(第3位)、山下一史、僕──みんな学生でした。今ではこのコンクールに日本だけではなく、欧米ですでにキャリアのある若者、チェコ・フィルのホルン奏者などオーケストラの団員(!)も受けに来ますからね。レヴェルは高いです。演奏するオーケストラ(今回は予選が東京フィル、本選が新日本フィル)もいいですし」 今回の応募は44の国と地域から238名。その中から厳正な映像審査を通った約18名が第一次予選のステージに立つ。参加者は持ち時間の中でリハーサルをしてもいい。“通し”の演奏は必要だ。 「ええ、審査員はみんな個性が強い(笑)。どういう若者を見出すか、考え方はいろいろでしょう。僕個人としては、経験とかキャリアではなく、やっぱり才能があるかどうかを見たい。振り慣れているか、ではなくて。外国の先生方もその傾向が強いみたいです。完成度よりも伸びそうな若者、未知数の才能と出会いたいって。審査していて素晴らしいなって思うのは、予選から本選の間に成長する若者がいること。現時点でのキャリアは関係ないんですよ」 前回2015年はスペインのディエゴ・マルティン・エチェバリアが第1位、太田弦が第2位、ドイツのコリーナ・ニーマイヤーが第3位。12年は田中祐子、石㟢真弥奈、09年は松井慶太がそれぞれ入選。06年には川瀬賢太郎が1位なしの第2位に入賞した。 「一般の入場者の方が選ぶ聴衆賞もあります。ぜひ聴きにいらして下さい。審査員を超える何かをもった若者が、きっといますよ」interview 広上淳一Junichi Hirokami/指揮東京国際音楽コンクール〈指揮〉審査委員第18回東京国際音楽コンクール〈指揮〉10/8(月・祝)~10/14(日) 東京オペラシティ コンサートホール問 東京国際音楽コンクール〈指揮〉事務局03-5362-3460http://www.conductingtokyo.org/©Greg Sailor

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