eぶらあぼ 2018.10月号
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212サーになるという。その新しい扉を開くきっかけになれるとは、フェス冥利に尽きるというものだ。ホアンは現在オランダ在住だが、いずれベトナムに帰ってフェスを立ち上げるつもりだという。いわゆるダンス後進国でも、「現役のダンサーが(特にヨーロッパで経験を積んだダンサーが自国で)フェスティバルを立ち上げる」という波は、着々と広がっている。NDAは、これからそういう動きも支援していきたい。そしてダンサーが国を超えて活躍するネットワークを作っていくのだ。ちなみに福岡ダンスフリンジフェスにハン・シンエ、『踊る。秋田』にJJBRO×MOMURO、神楽坂セッションハウスにイ・ドンハの招聘が決定。いずれも力作だ。 だが好事魔多しで、フェスが大きくなって政府系の資金が入ると、当然、政治的な干渉を受けることにもなる。とくに韓国は「トップが替わると、下の組織が丸ごと替わる」といわれている。今年は10年以上続いた「ソウル・ダンスコレクション」が突然中止になった。これはSPAF(ソウル・パフォーミング・アーツ・フェスティバル)という大きなフェスのサブ・プログラムで、横浜ダンスコレクションとも提携し、長年交流プログラムもやってきた重要な企画だ。それが突然の中止、来年はスタッフを一新してリスタートするという。現在のスタッフも寝耳に水だったそう。昨年、政権交代した影響が、一年経って現場に到達したということだろうか。 こうなるとなまじ大きくなるのも考え物だ。「ちょうど良いサイズ」とは何かを、つねに考える必要があるだろう。第48回 アジアで燃え上がる「小さくてアツいダンス・フェス」 8年前にダンサー・振付家のユ・ホシクが自分の車を売り払って始めたダンス・フェスが、今年は国の助成金を二つ獲得して、10日間のフェスに成長した。ソウルで行われている「NDA(ニュー・ダンス・フォー・アジア国際ダンスフェスティバル)」である。名前の通り、「広くアジア全体のアーティストのためのフェス」というのがコンセプト。オレが名付けた。 かつてダンス・フェスは大きな規模が当然だった。なぜならダンスとは、ダンスカンパニーがやるものだったからだ。しかし現在はソロ&デュオ、グループでも5人程度の作品が多いため、フェスも「規模は小さいがアツい」ものが続々と誕生している。 芸術監督ホシクは、次々にアジア各国へのネットワークを広げ、フェスを成長させた。加えてオレがアドバイザーとして提案したことを、次の年には確実に実現してみせる。日本は会議ばっかりしてっからなー。このスピード感は、フェスが若く小さいがゆえの利点だろう。 今回も単に日数を増やしたわけではなく、多角的にテーマを拡充してきた結果だ。日本からは、脂ののった中堅をはじめ、若手の中でも注目を浴びているダンサーが参加した(鈴木ユキオ、浅井信好、小池陽子、下島礼紗、中村駿&歌川翔太、平雛子&福田智子、久保田舞)。下島の顔写真はフェス全体のポスターに採用され、参加ダンサーは10ヵ国近くに及んだ。 NDAのサブ・プログラムのひとつにソロ&デュオのコンペティションがあり、優勝者はスペインのカナリア諸島で開かれる「MASDANZA」という国際フェスに招聘される。日本でも韓国でも、この手のものは自国のダンサーが多数を占めがちだが、NDAでは全9組中、韓国は3組のみ。日本、シンガポール、ラオス、ベトナム、マレーシアと、真のダイバーシティを体現していた。オレも審査員の一人だが、優勝はベトナムのホアン・ンゴック・トゥ『Trial』。男同士のデュオで、緊密な空間を展開していく作品だ。ちなみに彼は「MASDANZA」に招聘される初のベトナム人ダンProleのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com/乗越たかお

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