eぶらあぼ 2018.9月号
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80CD丸山韶 & Ensemble LMC『コン・アフェット~ヴェネツィアン・バロックの栄華』299 Music/Rec-LabNIKU-9017 ¥2800+税丸山 韶しょう(ヴァイオリン)古楽界の新鋭が紡ぐ18世紀ヴェネツィアの精彩と抒情取材・文:林 昌英Interview 表現の可能性が広がり続ける古楽の世界で、颯爽と名乗りを上げたヴァイオリニスト丸山韶。1990年生まれ、20代の若手ながら、すでに古楽団体を結成してリーダーを務めている俊才で、その経歴も実にユニークだ。 「ヴァイオリンは4歳から弾き始めましたが、高校生のときにバロック・ヴァイオリンに出会って衝撃を受け、さらに古楽団体によるバッハのCDを聴いて、こんなにすばらしい音楽があったのかと感激しました。それからオリジナル楽器による演奏を聴きあさり、試行錯誤しながらガット弦を張って、学校の仲間を集めて演奏を始めました。京都市立芸術大学での専攻はモダン・ヴァイオリンでしたが古楽奏法は独学で続け、その後東京藝術大学別科古楽科に入って初めて古楽のレッスンを受けたわけですが、先生や学生たちには驚かれ、面白がられました (笑)」 古楽に夢中になりながら独学で追究を続けたことで、かえって型にはまらない個性とスケール感を伸ばせたのだろう。早くも2014年には古楽オーケストラ「La Musica Collana」(以下LMC)を、東京藝大と桐朋学園の古楽科の仲間や卒業生を中心に結成した。 「主にイタリアの作曲家と、イタリアに影響を受けた作曲家の協奏曲作品の演奏をコンセプトとしています。イタリアは弦楽器、特にヴァイオリンが歌のように表現できる楽器として発達したため、ヴァイオリンが主体となる多様なレパートリーがあって本当に楽しいです。また、イタリアの協奏曲などを中心に演奏する団体が意外と日本にはなくて、仲間に声をかけるとぜひやりたい! と喜んで集まってくれました」 LMCは室内楽編成の際は「Ensemble LMC」と名前を変える。8月リリースの丸山のファースト・アルバム『コン・アフェット』には、アルビノーニとヴィヴァルディ——ヴェネツィアで同時期に活躍した巨匠たちのヴァイオリン・ソナタやトリオ・ソナタなどが収められている。共演は島根朋史(チェロ)、金子浩(リュート)、上尾直毅(チェンバロ/オルガン)。 「イタリア語の“affetto”(アフェット)は、『情感』と訳すのがいいと思います。イタリア音楽は“アフェット”で成り立っていると言っても過言ではないほど情感豊かで、それは僕自身も演奏で一番大事にしていることです。今回は、内面的な抒情性のあるアルビノーニ、華やかで聴きやすいヴィヴァルディ、同地で同時代を生きながら会う機会がほとんどなかったという対照的なふたりを選びました。特にアルビノーニは聴く機会が少ないですが、彼の旋律や和声には様々な“アフェット”が詰まっていて感情が揺さぶられます」 その他バロック・ヴァイオリンや古楽の魅力についても、時間を忘れて熱のこもった話が続いた。丸山の立派な体躯から発せられる真摯な言葉の力は、彼の演奏の意志の強さ、凛とした音色にもつながり、周囲が惹きつけられていく。このアルバムは将来古楽の大家となる男の、貴重な最初の記録となるに違いない。9/19(水)18:30 日経ホール問 日経公演事務局03-5281-8067 http://www.nikkei-hall.com/第476回 日経ミューズサロン アレクサンダー・コブリン ピアノ・リサイタルショパンの創作意欲をかき立てたソナタの変遷をたどる文:飯田有抄 知的な解釈と詩的な表現力、そして申し分ないヴィルトゥオージティで、聴く人の心を強く惹きつけるピアニスト、アレクサンダー・コブリン。1980年、モスクワ生まれの彼は、2005年にヴァン・クライバーン国際コンクールで優勝し大きな注目を集めたが、それ以前に2000年のショパン国際ピアノコンクールでも第3位に輝いている。そんなコブリンが、一夜でショパンのピアノ・ソナタ全3作を奏でるリサイタルを開く。ショパンがまだワルシャワの音楽院在学中に作曲し、古典的なスタイルをそこはかとなく感じさせる第1番、「葬送行進曲」を第3楽章に持つショパン初の本格的なソナタ第2番、そして円熟期に書かれた、規模が大きくロマンティシズム溢れる第3番。キャラクターのまったく異なる全3作品が、コブリンの持つ幅広い音色によって、表情豊かに立ち現れることになるだろう。ショパンのピアノ芸術に、改めて対峙できるひと時となりそうだ。
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