eぶらあぼ 2018.9月号
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56ピエタリ・インキネン(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団充実のコンビがおくる崇高にして至福なる体験文:柴田克彦第704回東京定期演奏会10/12(金)19:00、10/13(土)14:00 サントリーホール問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 http://www.japanphil.or.jp/ 今年6月、2016年9月~19年8月の契約だった日本フィルの首席指揮者ピエタリ・インキネンの任期を、21年8月まで延長することが発表された。08年の初共演から10年。現在プラハ響とザールブリュッケン・カイザースラウテルンドイツ放送フィルの首席指揮者も務める多忙な彼の契約延長は、両者の相性の良さと互いの信頼度の高さを物語っており、今後のさらなる成果を大いに期待させる。 新シーズン最初の共演となる10月定期のプログラムは、シューベルトの交響曲第5番とブルックナーの交響曲第9番。日本フィルで独墺音楽に主軸を置いているインキネンが、とりわけ実績を挙げてきたのはワーグナーとブルックナーである。彼は、1小節1フレーズを丹念に描出しながら、音楽にスケール感と深みをもたらす。この特質がブルックナーに合わぬはずがない。事実これまで当コンビは、本丸ともいえる7、8、5番の交響曲で、期待を上回る名演を残してきた。ゆったりしたインテンポで1歩1歩踏みしめながら創出される雄大な音楽…。近年稀な悠揚迫らぬブルックナーをいま最も味わわせてくれるのは、他ならぬ彼らなのだ。 しかし、作曲者の絶筆となった第9番には、重厚さや壮大さだけでなく、浄化された美感や崇高さと、現世への別れが滲んだ切なさがある。そこが5番や8番とは違った難しさだ。その点、インキネンの一方の特質である繊細さや透明感が格別の感動を予感させる。加えて、シューベルトの第5番のチャーミングで清澄なトーンも佳き導入効果を果たすであろう。独墺ロマン派王道交響曲の幕開けと終焉を、充実コンビの渾身の演奏で堪能したい。ピエタリ・インキネンロシア国立交響楽団(スヴェトラーノフ・オーケストラ) 名門楽団が響かせる“魂の叫び”文:笹田和人西本智実(指揮)9/13(木)19:00 サントリーホール9/15(土)14:00 横浜みなとみらいホール*マリウス・ストラヴィンスキー(指揮)9/17(月・祝)14:00 東京オペラシティ コンサートホール問 テンポプリモ03-3524-1221/神奈川芸術協会045-453-5080*http://www.tempoprimo.co.jp/ ※全国公演の日程は左記ウェブサイトでご確認ください。 独特の重厚なサウンドで、世界中の聴衆を魅了する名門・ロシア国立交響楽団が、日本人として初めて同交響楽団の指揮者ポストを歴任した西本智実に率いられ、7年ぶりの来日を果たす。この楽団を「伝統を紡ぎつつも、新しい時代を率先するスタイルを持っている」と評する西本。渾身のパフォーマンスで現出される、魂の叫びに身を委ねたい。 ロシア国立交響楽団は、1936年に創設。アレクサンドル・ガウクをはじめ巨匠らが音楽監督を務め、そのサウンドを磨き上げた。特に65年にエフゲニー・スヴェトラーノフが就任して以来、ロシア作品の名録音を次々に発表し、国際的な評価も急上昇。30年以上にわたる偉業を称えて、「スヴェトラーノフ・オーケストラ」の異名もとる。 「ロシアは、指揮者としての私を育ててくれた、音楽的な故郷。サンクトペテルブルクやモスクワでの指揮は、新しい扉を開いてくれました」と西本。今回は、チャイコフスキーの交響曲第5番を核に、同第6番「悲愴」(9/13)や、名ピアニストのリリヤ・ジルベルシュタインをソリストに迎えた、ラフマニノフの協奏曲第2番ほか(9/15)を組み合わせる。「作品から感じられる哀しみは、人間チャイコフスキーの哀しみ。彼の真意は作品の中に生き続けています。音楽の一言一句に込められたメッセージを、実演で蘇らせたい…。皆さまと様々な思いを共有できますことを、オーケストラと共に心待ちにしています」(西本) また、俊英マリウス・ストラヴィンスキー指揮で、チャイコフスキーの交響曲第5番ほかを披露するステージ(9/17)も開かれる。マリウス・ストラヴィンスキーリリヤ・ジルベルシュタイン西本智実 ©Daisuke Oki

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