eぶらあぼ 2018.9月号
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52藤沢市民オペラ 2018-2020シーズン 藤原歌劇団招聘公演《椿姫》上質なイタリアと、中村恵理の世界水準のヴィオレッタ文:香原斗志10/14(日)14:00 藤沢市民会館大ホール問 藤沢市みらい創造財団 芸術文化事業課0466-28-1135 http://f-mirai.jp/ 数々の意欲的な上演で知られ、以前から遠方にもファンが多かった藤沢市民オペラだが、2015年に指揮者の園田隆一郎を芸術監督に迎え、さらに一皮も二皮もむけた。主にイタリアで活躍していた園田が作る音楽は、様式感が確かで精緻に構築される。そのうえイタリア人が指揮するように、ときにはそれ以上にイタリアを感じさせるのだ。藤沢市民オペラの上演も、相模湾ならぬアドリア海の風のような“上質なイタリア”にまとわれるようになった。18年以降も園田の続投が決まり、これで少なくともあと3年、湘南で生粋のイタリアを味わえる。 新たなシーズンの最初を飾るのはヴェルディ《椿姫》(演出:岩田達宗)。藤沢市民オペラの1シーズンは1年目に招聘公演、2年目に演奏会形式でのオペラ公演、3年目に市民オペラの本公演というスケジュールで、この《椿姫》は藤原歌劇団の招聘公演になる。その目玉は、一昨年までバイエルン国立歌劇場のソリストとして活躍し、声楽的な技巧にも演劇的な表現力にも長けている中村恵理のヴィオレッタである。共演陣もアルフレードに笛田博昭、ジェルモンに須藤慎吾と実力者が揃った。中村を起用した理由を園田は次のように語る。 「《椿姫》はヴェルディ中期の傑作で、音楽的に充実しているのはもちろん、演劇的でもある。中村さんの声にはその両方があります。軽やかさと強さの両方を持ち合わせ、役への入り方も深く、華やかさも苦悩も十分に表現できる。だから、ぜひ彼女に歌ってほしかったのです」 次第に声を充実させている中村。軽やかさも必須のヴィオレッタは、いまが聴きごろであり、いましか聴けないかもしれない。その意味でも聴き逃せない。須藤慎吾マクシム・エメリャニチェフ(指揮) 東京交響楽団時代の先端をいく新星と名匠の2人で聴かせるドイツの本格派プロ文:飯尾洋一東京オペラシティシリーズ第105回9/29(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール問 TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511第109回 新潟定期演奏会9/30(日)17:00 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館問 りゅーとぴあチケット専用ダイヤル025-224-5521 http://tokyosymphony.jp/ 指揮のマクシム・エメリャニチェフとピアノのスティーヴン・ハフ。東京交響楽団の東京オペラシティシリーズ第105回と第109回新潟定期に、ヨーロッパを席巻するふたりの才人が招かれる。プログラムはメンデルスゾーンの序曲「フィンガルの洞窟」、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」、ブラームスの交響曲第1番という本格派ど真ん中。 マクシム・エメリャニチェフは1988年、ロシア生まれ。フォルテピアノ奏者、チェンバロ奏者でもあり、モダン・オーケストラとバロック・オーケストラの両方で活躍する気鋭の若手である。古楽アンサンブル、イル・ポモ・ドーロの首席指揮者を務め、次シーズンにはスコットランド室内管弦楽団の首席指揮者に就任することが発表されている。鍵盤楽器奏者としては、フォルテピアノを弾いてモーツァルトのソナタ集の録音をリリースするほか、鬼才クルレンツィス指揮によるモーツァルトのダ・ポンテ・オペラでは通奏低音を担っている。 まさに才気煥発という言葉がふさわしい新星だが、東京交響楽団からどんなサウンドを引き出してくれるだろうか。有名曲ぞろいのプログラムなので、エメリャニチェフのキャラクターがはっきりと伝わってくることだろう。 また、イギリスを代表する名匠スティーヴン・ハフとの共演も楽しみだ。世界最高峰のソリストで「皇帝」を聴けるチャンスは決して多くはない。記憶に残る名演を期待したい。スティーヴン・ハフ ©Sim Canetty-Clarkeマクシム・エメリャニチェフ ©Julien Mignot園田隆一郎 ©Fabio Parenzan岩田達宗中村恵理 ©Chris Gloag笛田博昭

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