eぶらあぼ 2018.9月号
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41ロリー・マクドナルド(指揮) 神奈川フィルハーモニー管弦楽団ドラマティックで豊穣なサウンドを満喫文:オヤマダアツシ定期演奏会 みなとみらいシリーズ 第344回11/17(土)14:00 横浜みなとみらいホール問 神奈川フィル・チケットサービス045-226-5107 http://www.kanaphil.or.jp/ 若い世代の、新鮮な指揮者が頻繁に登場する首都圏のオーケストラだが、未来を占うという意味でも若手指揮者の音楽性やルックス、オーケストラとのコンタクト力などに注目しておくのも一興だ。 1980年にスコットランドで生まれたロリー・マクドナルドは、デイヴィッド・ジンマンやフィンランドの名匠ヨルマ・パヌラほかの薫陶を受け、アントニオ・パッパーノの下でワーグナー作品、とりわけ《ニーベルングの指環》への理解を深めた。コンサートとオペラの両輪においてキャリアを積み、ダイナミックな音楽作りをするマエストロとして評価を高めている。 11月17日に行われる神奈川フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会では、そうしたマクドナルドが得意とする作品がプログラミングされ、聴き手はこの指揮者の存在感を大いに知ることになるだろう。コンサートの後半には、近年ますます日本でも知られるようになった《ニーベルングの指環》オーケストラル・アドヴェンチャー(ヘンク・デ・フリーヘル編曲)が演奏されるからだ。長大なこの楽劇の名曲・名場面集といえるこの組曲は、ワーグナーの響きに約1時間どっぷりとつかりながら物語を“冒険”するような趣向であり、オペラはちょっと苦手だという方でも交響詩として楽しめるはず。コンサート前半にはワーグナーの影響も見え隠れするエルガーの「南国にて」も演奏され、神奈川フィルの豊かなサウンドが全開となるだろう。ロリー・マクドナルド ©Ruth Crafer紀尾井ホール室内管弦楽団によるアンサンブルコンサート3ブルックナー:交響曲第7番 室内楽版小編成で聴くマーラーとブルックナーの妙なる響き文:多田圭介12/5(水)19:00 紀尾井ホール問 紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061 http://www.kioi-hall.or.jp/ アントン・バラホフスキー(ヴァイオリン)らバイエルン放送響の名手たちが紀尾井ホール室内管弦楽団(KCO)のメンバーと組んで、マーラーの「さすらう若人の歌」とブルックナーの交響曲第7番の室内楽版を取り上げる。シェーンベルクとその弟子たちによる編曲版だ。シェーンベルクは1918年に発足させた「私的演奏協会」で、大規模な管弦楽作品の大胆な室内楽用アレンジを数多く試みた。そうした取り組みのなかで「さすらう若人の歌」はシェーンベルク自身によって、ブルックナー「第7」は弟子のアイスラーらによって成された。93年にヘレヴェッヘが「大地の歌」を録音して以来、「私的演奏協会」によるこうした編曲ものにCDで接する機会は増えてきているとはいえ、ライヴで聴く機会はまだ少ない。 ブルックナーの分厚い和音やマーラーの豪奢な色彩を室内楽に編曲すると、旋律の素朴な佇まいが目立つと予想されるかもしれない。だが、実際はそうならない。編曲が優れているのだ。清廉な抒情を湛えつつも動機の細やかな動きが明晰に浮かび上がってくる。ブルックナーは小さな教会に光が差し込んでくるように清らかで、マーラーは世紀末ウィーンの街角で楽士が奏でる唄を彷彿させるように親密。ピアノの使い方が巧みだが、原曲がピアノ伴奏だったことを考慮したのだろう。今回は伊東裕(チェロ)、金子平(クラリネット)といったKCOのメンバーと萩原潤(バリトン)、北村朋幹(ピアノ)といった“腕利き”が揃うだけに、個々の奏者の力量が問われる編曲版での演奏が楽しみだ。 なお、2019年のシリーズ4(1/29)ではオーボエの池田昭子や新メンバーを中心とした木管アンサンブルで、「カルメン組曲」など寛いだプログラムを予定。対照的な曲目により室内楽の可能性を広げる。左より:アントン・バラホフスキー ©ヒダキトモコ/伊東 裕/金子 平 ©ヒダキトモコ/萩原 潤/北村朋幹 ©TAKUMI JUN
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