eぶらあぼ 2018.9月号
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199二人を覆う半透明のビニールの小部屋を作り、かすかに視認できる状態で踊る。二人のダンスは切れもよく強烈。その後は小部屋から出るのか残るのか、心理的な駆け引きが面白かった。アーティストを出会わせるのはきょうびのフェスの重要な役割のひとつだが、スウィブンは、長所を見抜いて相性のいい相手と出会わせるセンスが飛び抜けて良く、これまでも感心させられている。 フェスの翌日、フェスティバルの超有能なマネジャー、アセリーナ・スウィー(Athelyna Swee)に、現地の新しいプロジェクト「ダンス・ニュークリア」を紹介してもらった。シンガポール・ダンス界のスター、ダニエル・コックが中心となりグッドマン・アーツセンターのスタジオの一部を様々なアーティストに開放しているのである。年間数万円程度の寄付で、キュレーターとしてスタジオを使える。1時間区切りでのショウイングでも、長時間リハーサルに使ってもいい。個人のアーティストを支える仕組みを、現役のアーティストが中心になってやっているところが素晴らしいな。 その後も10月に上演するスウィブンの新作が、シンガポールでは違法になるゲイについての作品だという話をカエル料理をいただきながら聞いた後、シンガポールより暑い東京に帰った。 みな、闘っとるな!第47回 「多様性は混沌を馴染みとしてこそ、のシンガポール」 島国の日本と比べると、近隣にある多くの国との密接な関わり、さらに植民地時代のヨーロッパとのつながりなど、東南アジアはダイバーシティ(多様性)のパワーが半端ない。なかでもシンガポールはその中心的なハブとして存在を高めている。 ダンスも同様だ。ヨーロッパで活躍したクイック・スウィブン(Kuik Swee Boon)が2007年に帰国し、翌年「T.H.E ダンスカンパニー」、10年に「M1 コンタクト・コンテンポラリー・ダンス・フェスティバル」を立ち上げた。以来、シンガポール全体のダンスのレベルが底上げされている。 そのフェスに行ってきたわけだが、初日は「オフステージ」という6組の若手振付家の15分程度のスタジオ公演で、終演後にゲストの海外ディレクター達が各作品に対してコメントする交流プログラム。若い作り手が自分の言葉で作品について語るのは非常に重要なのだ。 翌日から二日間の「オープン・ステージ」10作品、アジアのアーティストの協同プログラム「DiverCity」(DiversityとCityをかけてる)1作品は個性的な面々がそろった。 Annamaria Ajmone(イタリア)は静止と突発的な動きで身体がネジ切れるようなダンス。Chey Jurado(スペイン)もストリートダンスの手法をダンスの中に溶け込ませて観客を引きつけた。 日本からは、三東瑠璃と久保田舞。三東はちょっと怪物的な迫力のあるダンサーで、ヨーロッパの有名カンパニーからバンバン声がかかる。今回はソロ作品『Matou』でその力量を見せつけた。 久保田はシンガポールのGo Shou Yiとの共同振り付け作品『NAKA(中)』。昨年このフェスに呼ばれて作ったものをブラッシュアップしたそう。舞台上にProleのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com乗越たかお

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