eぶらあぼ 2018.9月号
167/201
176CDSACDCDCDマーラー:交響曲第10番、ブルックナー:交響曲第9番/ノット&東響Vocalise ~ヴァイオリンで紡ぐ詩うた~/椙山久美&上田晴子悲しみの足跡の中に/マリアン・コンソートベートーヴェン・アルバム/高田泰治マーラー:交響曲第10番(ラッツ校訂版)ブルックナー:交響曲第9番(コールス校訂版)ジョナサン・ノット(指揮)東京交響楽団チャイコフスキー:メロディ~「なつかしい土地の思い出」より/マスネ:タイスの瞑想曲/プッチーニ:私のお父さん/ラフマニノフ:ヴォカリーズ/ポンセ:エストレリータ/ピアソラ:オブリヴィオン/伊藤康英(椙山久美編):浜松市歌 他椙山久美(ヴァイオリン)上田晴子(ピアノ)ガブリエル・ジャクソン:スターバト・マーテル/パレストリーナ:バビロン川のほとりに、スターバト・マーテル、アヴェ・マリア/アレグリ:ミゼレーレ/ジェームズ・マクミラン:ミゼレーレロリー・マクリーリー(指揮)マリアン・コンソートベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」・第14番「月光」、7つのバガテル高田泰治(フォルテピアノ)収録:2018年4月、ミューザ川崎シンフォニーホール&サントリーホール(ライヴ)オクタヴィア・レコードOVCL-00668(2枚組) ¥3800+税コジマ録音ALCD-7222 ¥2800+税DELPHIAN/東京エムプラスPDCD-34215 ¥2857+税ナミ・レコードWWCC-7876 ¥2500+税ノット&東響の第5作。未完の遺作を組み合わせた公演のライヴ録音である。マーラーの10番は、精妙な表情と緊張感を終始保ちながら進行。一筆書きの如きトーンで、じんわりとした感銘を与える。ブルックナーの9番は、引き締まった造型と精緻なバランスによって生み出された、驚くほど自然な演奏。第1楽章の絶妙な呼吸、第2楽章の峻烈な表現、第3楽章の種々の動きの明確さなど、特筆すべき点もあるが、大言壮語せずして雄弁な、感動的名演と言うに尽きるだろう。2曲の共通性を感慨深く再確認できるのも本盤の妙味。当コンビの充実を如実に示す1作だ。(柴田克彦)ウィーンで名教師フランツ・サモヒルに師事、現在は故郷の浜松を拠点に活躍するヴァイオリニスト椙山久美が、気心知れた名ピアニスト上田晴子と共に、全18曲、多彩な国々の名旋律を聴かせるアルバム。芯の強い音で曖昧さなしに歌いこむ椙山のヴァイオリンと、精妙なハーモニーが美しい上田のピアノが相乗効果を生み、スラヴの哀愁からラテンの小粋な情趣まで、成熟した歌が感動的な表情をもって心に届く。「なつかしい土地の思い出」で始まり、欧州、中南米と巡って世界一周した後、日本の浜松市歌で閉じる、椙山の「思い出の土地」を伝える構成も、音の旅の余韻を深める。(林 昌英)次代を担うスコットランドのア・カペラ・アンサンブル、マリアン・コンソート。9枚目のアルバムである本作、古くはパレストリーナから現代のガブリエル・ジャクソンに至る約400年という歴史における詩篇第51篇(『ミゼレーレ』)、『スターバト・マーテル』の各歌詞による音楽を辿る旅、とでも言えようか(CDタイトルの『悲しみの足跡の中に』とはそれを意味する)。アレグリ作品における尋常ではない高純度のハーモニーは新時代的に異常な冴えを聴かせて驚異的だが、2曲の現代曲、わけても冒頭のガブリエル・ジャクソン作品は傑作。懐古的、しかし新しい音感覚、その冴え渡り方。(藤原 聡)関西とドイツで活動する高田泰治による、スイスの名工J.G.グレーバー製作のフォルテピアノ(1807年頃製)を使用した録音。「膝で操作するペダルを持つ最後期のモデル」で、貴重なオリジナル楽器だという。1800年前後に書かれたベートーヴェンの二つのソナタ「悲愴」「月光」とバガテルを収録。絶妙な演奏技術により、楽器の音の伸びに従ったテンポで、楽器の能力を可能な限り引き出した起伏豊かな演奏が繰り広げられる。音は華やかで温かい。新鮮で鮮烈な音楽に、作品の真の姿を見るよう。進化する楽器にあわせて作品を発展させた作曲家の意図に応える演奏が収められている。(高坂はる香)
元のページ
../index.html#167