eぶらあぼ 2018.8月号
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滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールは、関西随一のオペラ劇場として、一流のオペラやバレエに加えコンサートも開催。また、国内外の実力派アーティストが充実したアンサンブルやソロも披露するほか、講座なども開催しています。このコーナーではびわ湖ホールが主催する注目の公演をご紹介します。びわ湖ホールPreviewびわ湖ホールチケットセンター077-523-7136 https://www.biwako-hall.or.jp/マエストロ沼尻が伝授する“オペラのつくりかた”文:寺西基之沼尻竜典オペラ指揮者セミナーⅣ 〜《蝶々夫人》指揮法〜沼尻竜典オペラ指揮者セミナーⅣ~《蝶々夫人》指揮法~8/1(水)13:00~17:00、8/2(木)13:00~17:008/3(金)11:00~17:00 (終了時刻は予定)会場:滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 大ホール指揮する受講生の正面と側面からの映像がリアルタイムでそれぞれに映し出されるので、客席の聴講者にも受講生の棒の振り方が手に取るようにわかる。辛辣な厳しさの中にユーモアを交えた沼尻の指導ぶりはとても理解しやすく、ちょっとした振り方の違いで歌手やオケの反応が一変し、出てくる音楽が変化するのを実感できるのが面白い。指揮やオペラを専攻する人のみならず、一般の音楽ファンにとっても学ぶところの大きいセミナーである。 今年は《蝶々夫人》を課題として8月1〜3日に開催される。初日は2台ピアノ伴奏による基本的なレクチャー、2日目と3日目がオケを振っての演習で、3日目の最後に受講生の成果発表が行われる。昨年の《ラ・ボエーム》に比べて、《蝶々夫人》はより書法が複雑で音が濃密な作品だけに指揮者にとってはさらにハードルが高い。沼尻がこのオペラを振るための秘訣をどう伝授するのか、とても興味深いものがある。 一口に“指揮セミナー”といってもいろいろだが、びわ湖ホールで毎夏開催される「沼尻竜典オペラ指揮者セミナー」はオペラの指揮に特化している点がユニークだ。毎年ひとつのオペラ作品を課題とし、その幾つかの部分を取り上げて、どのように指揮すれば歌手やオケに表現が伝わるのか、同ホール芸術監督・沼尻竜典が、事前に選ばれた数名の受講生を3日間にわたりみっちりと指導する。しかも、プロのオペラ歌手であるびわ湖ホール声楽アンサンブルのソロ登録メンバーたちと大阪交響楽団(初日のみ2台ピアノ)を実際に振りながらの講習なので、きわめて本格的である。一般の聴講が可能なのも大きな特長だ。筆者は一昨年《ドン・ジョヴァンニ》、昨年《ラ・ボエーム》と、このセミナーを客席で聴講し、オペラの現場における指揮法の極意に触れる思いがしたものだ。 一昨年と昨年について言うならば、受講生は音楽大学で勉強中の人もいるが、ほとんどはすでに内外でオペラを指揮していたりコレペティを務めるなどそれなりの経験者だった。しかしそうした経験者でさえ実際に振らせてみると、歌手やオケに意図がうまく伝わらなかったり、アンサンブルに破綻をきたすなど、様々な問題点が浮かび上がってくる。沼尻は彼らの指揮のどこに問題があるのか、具体的に指摘し直していく。最も心がけるべきこととして沼尻が強調するのが、不必要な動作を排してシンプルな動きで振るという点だ。余計な棒の動きが目立つ受講生には、あえて腕や棒を動かさずに目や顔の表情だけで指揮することを試させたり、沼尻自らが悪い振り方の例を示して、なぜアンサンブルが崩れるのかを明らかにしたり、時には歌手やオケ・メンバーに受講生の振り方のどこがわかりにくいのか意見を求めることもある。そして本人に上手くいかないところを自覚させるなど、目に見える形で問題点を炙り出しながら、オペラの場面の情景やストーリー、人物の感情をどのように表現するかを指南する。 ステージの後方には大型のスクリーンが2つ用意され、昨年の様子

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