eぶらあぼ 2018.8月号
23/179
Presented by SUNTORY HALL 我が国を代表する現代音楽祭として歴史を重ねてきた「サントリーホール サマーフェスティバル」。今年は8月22日から9月1日まで開催されるが、公演は、〈ザ・プロデューサー・シリーズ〉で企画を担当した野平一郎のオペラ『亡命』の世界初演で幕をあける(8/22,8/23 ブルーローズ)。 ハンガリーが舞台の二組の夫婦の物語で、作曲家ベラが主人公。野平多美の日本語原作をピアニストでもあるロナルド・カヴァイエが英訳した台本が使われる(日本語字幕での上演)。 「今回のオペラでは卓越した技量をもつバリトンの松平敬さんを念頭に置いて、主人公ベラを。その妻で精神科医のソーニャには、日本を代表するソプラノの幸田浩子さん、さらに各声種一人ずつ用いて、計5人による室内オペラとして構想しました。二組の夫婦が共産圏から自由なウィーンに亡命する物語を軸に、現実と虚構、過去と未来をも行き来する多彩な時空を体験していただければと思っています。声楽陣は複数の役柄を受け持ち、語りも入ります。90分を6人の器楽奏者でもたせる必要があるので、各楽器には高度な技巧も含め、種々の役割を充てています」 ストーリー、音楽ともに実に興味深い。新しい傑作が誕生する予感だ。 さて、野平が企画構成を担当した《フランス音楽回顧展Ⅰ》(8/27 ブルーローズ)、《同Ⅱ》(9/1 大ホール)もスケールが大きな聴きものだ。野平自身が多大な影響を受けた戦後のフランス音楽から魅力的な曲が選ばれた。 「ブーレーズの『プリ・スロン・プリ』は1989年に完成され、日本初演が93年でしたが、以後演奏機会に恵まれていません。回顧展ではこのブーレーズ作品を軸に、彼が作曲家として積み上げてきたものを見直してみようと考えました。3台のハープ、ギター、マンドリンを含む編成もユニークですし、マラルメの詩が曲を追うごとに音楽に溶け込んでいくさまに、卓越した手腕が表れています。在仏歴が長く、現代作品も得意な浜田理恵さんの歌で聴けるのは、とても楽しみです。ラファエル・センドの『フュリア』での音の生成、フィリップ・マヌリの『時間、使用法』での演劇的な面白さなどにも、注目いただければと思います。なおマヌリ作品に登場するグラウシューマッハー・ピアノ・デュオは大変素晴らしいので、ぜひご期待ください」 今回のフェスティバルでは、「サントリーホール国際作曲委嘱シリーズNo.41」としてクラリネット奏者でもあるイェルク・ヴィトマン特集(8/25 ブルーローズ,8/31 大ホール)、また恒例の芥川作曲賞選考演奏会も開催される(8/26 大ホール)。 「ヴィトマンさんは演奏・創作の両面で活躍している現代の優れたエンターテイナ-だと思います。31日には、彼の妹であるカロリンが世界初演するヴァイオリン協奏曲が披露されます。私も選考委員として加わった芥川賞では、まったく未知の才能を発掘したいと考えていました。結局候補作は先日、『Music Tomorrow 2018』で演奏された坂田直樹さんの作品をはじめ、既に評価を受けた作品が順当に選出されましたが、ホールやオーケストラの違いで演奏も変わります。今回のサマーフェスティバルで、さまざまな現代作品を実際に聴いて、新しい発見をしていただければと思います」サントリーホール サマーフェスティバル 20188/22(水)~9/1(土) サントリーホール 大ホール、ブルーローズ(小)問 サントリーホールチケットセンター0570-55-0017http://suntory.jp/HALL/現代フランス音楽の回顧、そして自身のオペラ世界初演と取材・文:伊藤制子Ichiro Nodaira/作曲・指揮・ピアノ©相田憲克
元のページ
../index.html#23