eぶらあぼ 2018.8月号
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179 ざっと挙げてみると、マサイ族が垂直に飛び上がるジャンプなど、民族色や身体性を取り入れて踊るケニアのフェルナンド・アヌアンガ。そして1994年に廃止されるまで悪名高きアパルトヘイト(人種隔離政策)があった南アフリカのニコラ・エリオットのカンパニーでは、白人と黒人のダンサーが共に踊っている。同じく南アのヴヤニ・ダンス・シアターは、ザケス・ンバの小説『死の方法』を作品化した『シオン』(2017)で暴力に満ちた黒人社会を描いた。 ワールドカップのグループリーグで日本と激闘を繰り広げたセネガルは、アフリカのコンテンポラリー・ダンス界では先駆け的な存在である。ジャメイン・アコニー(1944年セネガル生)はアフリカと西洋の両方のダンスを学び、フランス人の巨匠モーリス・ベジャールの下で活躍し、ベジャールの協力を得てセネガルに芸術学校ムードラ・アフリケ(1977)を作った。80年にそこを去ってからもフランスとセネガル両方で活躍し、カンパニー・ジャン・ビーに山崎広太と共同振り付けした『Fagaala』(2007)では、ともにニューヨークで栄えあるベッシー賞を受賞している。 モダンダンスからコンテンポラリー・ダンスまで、過去百年間「新しい芸術的なダンス」はNYや西ヨーロッパなど一極集中的に進化してきた。しかしいまや、東欧北欧、中東、アフリカ、アジア、南米、中南米など、様々な地域がそれぞれ拠点となって活発に活動している。多様性は新しい才能を待つ。ダンスが盛り上がるのはこれからだぞ!第46回 「サッカー同様、アツい国アフリカのダンスがアツい!」 サッカーワールドカップ、日本中で盛り上がったが、今大会は「番狂わせ」が多かった。つまり強豪国と言われていた国々が「格下の相手」に大苦戦、もしくは負けていったのである。 そういう「意外な活躍をした国」の中でも、存在感を示したアフリカ勢を覚えているだろうか。かつて「アフリカ人は身体能力が高いので陸上競技などにはいいが、サッカーは戦術を理解してプレイするものだから向いていない」とまことしやかに言われてきた。それは「アフリカ人に頭脳を使うスポーツは無理だ」という差別・偏見なわけだが、無論そんなことはない。環境が整って学ぶことができれば、組織的なプレイも普通にできることは、今大会で十分に証明されただろう。 実は同じことはダンスの世界でも起こっているのである。アフリカのダンスというと「身体性を前面に出した民族舞踊」という一律のイメージが強く、なんとなく(コンセプチュアルなものが多いコンテンポラリー・ダンスは無理なんじゃ…)と思われてきた。しかしこの数年、アフリカは大いに盛り上がってきているのである。 スポーツと文化が躍進するときには、それを支える経済的な成長が必ずある。アフリカの躍進の影には、じつは中国がいるのだ。中国のアフリカへの経済投資は、2000年に北京で行われた閣僚級会議から始まり、「10年間で10倍」と言われるほどすさまじい額がつぎ込まれている。豊富な天然資源や、政治的経済的な覇権など思惑はいろいろある。借金漬けにされて港や空港を乗っ取られたスリランカの二の舞になるのではと危惧する声もある。 しかし、とりあえず経済的に潤ったアフリカ各国は、教育や文化にも力を入れている。植民地時代の名残で言葉も通じやすいヨーロッパへ留学が盛んになり、急速に成長したのである。 まあアフリカといっても広いので、国によって様々ではあるけれども。Proleのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com乗越たかお
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