eぶらあぼ 2018.8月号
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152CDCDCDCD余韻と手移り/高橋悠治J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ(全曲)/小林美恵ファンタジー/大伏啓太笙韻若水~真鍋尚之 作曲と笙の世界~J.S.バッハ:パルティータ ハ短調BWV997/ナッセン:祈りの鐘素描 ―武満 徹 追悼―/増本伎共子:連歌/高橋悠治:荒地花笠/ヴィヴィエ:ピアノフォルテ/石田秀実:ミュージック・オブ・グラスⅠ~Ⅲ/チマローザ:ソナタ イ短調C.55 他高橋悠治(ピアノ)J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番~第3番、無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第1番~第3番小林美恵(ヴァイオリン)シューマン(リスト編):献呈/ブラームス:8つの小品/シューマン:幻想曲、アラベスク大伏啓太(ピアノ)真鍋尚之:呼吸Ⅲ~Ⅴ、箏四重奏曲、Trio~笙と二面の箏のための~、対峙Ⅱ~笙と中国笙のための~真鍋尚之(笙) 螺鈿隊(らでんたい)【市川慎 山野安珠美 梶ヶ野亜生 小林真由子(以上箏)】 巍(中国笙)収録:2018年3月、浜離宮朝日ホール(ライヴ)他マイスター・ミュージックMM-4035 ¥3000+税オクタヴィア・レコードOVCL-00664(2枚組) ¥3500+税録音研究室(レック・ラボ)NIKU-9016 ¥2800+税収録:2012年12月、東京オペラシティ リサイタルホール(ライヴ)他コジマ録音ALCD-9182 ¥2500+税ぽつりぽつりと置かれるリズムに奇妙な節回しを乗せたバッハのパルティータに始まり、小さな鐘の共鳴(ナッセン)や日本的な情緒を宿した煌めき(増本伎共子)が続く。激しくごつごつとしたテクスチュア(高橋、ヴィヴィエ)には、シンプルな点描風景(石田秀実)が対比される。響きの万華鏡が過ぎていった後のチマローザは、しみじみと美しい。これだけばらばらなものを一定の呼吸でまとめてしまうあたりは、ベテランの技。が、そろそろ80歳になるというのに、冒頭のバッハの不穏さからして単なる枯淡にとどまるつもりなどないのも明らかだ。静かなる前衛ぶりにすっかり嬉しくなった。(江藤光紀)1990年にロン=ティボー国際コンクールのヴァイオリン部門で、日本人として初の覇者となった小林美恵。わが国を代表する名手として活躍を続ける名手による、バッハの無伴奏録音は、スケールの大きな音楽創りが印象的だ。楽器を存分に鳴らし切り、暗示に終始しがちな和声も、可能な限り現出。「ソナタ第1番」のアダージョや「パルティータ第1番」のサラバンドなど、緩やかなテンポ取りながら、フレーズが息切れしたり、流れが滞ったりは一切ない。一方で、弓遣いやヴィブラートひとつにも、繊細な心配りを行き渡らせ、ひたむきに「モダン楽器だからこそ、可能な表現」が追究されてゆく。 (笹田和人)2015年ドイツのピアナーレ国際ピアノコンクールに優勝。現在、母校東京藝大や桐朋学園大で後進の指導にあたりながら演奏活動を行う大伏啓太のデビュー盤。冒頭に収録されたシューマン=リストの「献呈」から、輝かしく、同時に重みのある音で耳を引きつける。ブラームスの「8つの小品」も、ごく自然に美しい緩急をつけつつ、1曲ごと巧みに表情を描きわける。充分なテクニックのうえで落ち着きをもって奏でられるシューマンの幻想曲は、のびのびとしていながら、揺れ動く心情を細かく描いている。持ち前の温かい音色が収録作品とよく合っていて、聴いていて心地よい。 (高坂はる香)真鍋尚之は笙奏者にして作曲家でもある。これはその接点に生まれたアルバムだ。まず冒頭の「呼吸III」に、「笙は和音を作る楽器」という先入見を粉々に打ち砕かれた。重力から解放されたかのように笙が運動性を持ち、自在に疾走する。すると清涼というのとは正反対に、ほんのりとしたエロスが漂い出す。「Trio」では驀進する箏に暴力的なアクセントで介入する。中国笙とのデュオ「対峙II」は二つの笙が互いに捕捉しあい、逃走しあうスリリングな協奏だ。真鍋は雅楽の演奏家でもあるが、西洋的に作曲しているようだ。そのせいか、所々で不思議と電気楽器や電子音楽を聴いている気分になった。(江藤光紀)

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