eぶらあぼ 2018.6月号
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86CD『ノスタルジア』コジマ録音ALCD-9183¥2800+税6/7(木)発売綱川千帆(ピアノ)ロンドンで培った感性が息づくアルバムをリリース取材・文:宮本 明Interview 12歳で渡英、20年間をロンドンで過ごして2015年に帰国したピアニスト綱川千帆がデビューCD『ノスタルジア』をリリースする。D.スカルラッティのソナタに始まり、ベートーヴェン、プーランク、ラヴェル、そしてバルトークの「ルーマニア民族舞曲」、プロコフィエフの「束の間の幻影」と、幅広い時代のレパートリーが並ぶ。 「ロンドン時代、ルーマニア人のヴァイオリニストとデュオを組んでいたので、ルーマニアは何度も訪れました。首都ブカレストから少し離れると、馬車が走る農村の風景があります。人々が路上で踊っている。結婚式では実際に、バルトークの曲中にあるような足踏み踊りを踊るのだそうです。そのように、ロンドンで経験したことや学んだこと、さまざまな思いが詰まったアルバム。そして自分が故郷や過去を懐かしむだけではなく、聴いている方にも懐かしいビジョンが見えてくるような作品にしたいと思いました」 冒頭のスカルラッティでは、バロック作品ながらモダンでロマンティックな表現を採っているのが印象的。ロンドンは古楽の中心地のひとつでもあるはずだが? 「もちろんスタイリスティック・パフォーマンス(古楽奏法)のクラスもいっぱいありましたが、私が演奏しているのはチェンバロではなくフルサイズのモダンピアノで、ホールも音のよく響く現代の建物。スカルラッティはバッハやヘンデルと同年代のバロック時代の作曲家でしたが、彼の音楽には当時としては極めて斬新な技巧が含まれていました。先生からは『Make music personal—自分が弾きたいように弾いて、それが聴いている人に対して説得力があるのなら、それでいいんだよ』と言われてきました。古楽の奏法も理解したうえで、これを録音した時はこういう気分だったというか(笑)。私は、ホールや楽器の響きによって、解釈がかなりスポンテーニアスに変わってくるのです。あらかじめ用意していたプランと正反対になることもあります」 スポンテーニアス(自発的、即興的)という言葉を何度も口にする。その自由度が彼女流、英国流のようだ。たとえば運指や装飾音なども、練習では神経質なほど毎回同じやり方で繰り返すのだけれど、本番ではそれにとらわれないのだという。「そのほうが新鮮だから」。どれだけ自然な流れで表現できるかが重要なのだ。 現在は故郷の栃木を拠点に活動中。 「活動のためには東京に出たほうがよいのでしょうが、ロンドンもそうだったけれど、栃木のほうが時間がゆったり感じられます」 自分の音の細部に耳を澄ましたいという彼女には、ふさわしい選択なのにちがいない。6/22(金)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール問 キーノート0422-44-1165 http://www.ensemble-nomad.com/アンサンブル・ノマド 第63回 定期演奏会 超える Vol.1 外に向かって耳を澄まして未知の世界へ意志を向ける文:江藤光紀 現代音楽シーンをリードするアンサンブル・ノマドが、「超える」と題したシリーズをスタートさせる。ノマドとは広野を移動する遊牧民のことだから、「超える」は彼らのアイデンティティの根幹をなす概念といえよう。今回のサブタイトルは「外へ向かって」だが、「難解な作品にじっと耳を澄まし、自分の限界を超え、未知の世界へと意志を向ける」という宣言は、亀裂や矛盾が噴出するグローバリゼーションの時代だからこそ、いっそうまぶしい。 コンサートは前衛の時代の西ドイツに学び高く評価されながら早世した甲斐説宗「ヴァイオリンとピアノのための音楽’67」ではじまる。日本の美学を創作に反映させるロバート・コバーンは、「静寂の透かし彫り」で点描風に置かれた音に耳を澄ます。孤高の長老・湯浅譲二からは「弦楽四重奏のためのプロジェクション」。パリで学んだホセ・マヌエル・ロペス・ロペスはノマドもこれまでに取り上げているが、今回は2013年の近作「暗黒物質」を。掉尾を飾るのは日本とスイスを股にかける久田典子が、『オズの魔法使い』に寄せた作品集「黄色いレンガに導かれて」より「怪物と大きな黄色い花」。

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