eぶらあぼ 2018.6月号
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80CD『橋本京子プレイズ W.A.モーツァルト “影からの音たち”』ナミ・レコードWWCC-7874 ¥2500+税5/25(金)発売橋本京子(ピアノ)モーツァルトの短調作品に聴く内なる深淵取材・文:長井進之介Interview モントリオール(カナダ)のマギル大学音楽学部ピアノ本科主任教授を務めるピアニストの橋本京子は、これまでにスイス、米国、ベルギー、オランダなどに居住し、30ヵ国以上の国をまわり、多彩な演奏活動を行ってきた。豊富なレパートリーを持つ彼女が今回『影からの音たち』と題した新譜のために選んだのはオール・モーツァルト・プログラムである。 「モーツァルトはピアニストにとって永遠の課題です。音が少なく、スタイルが確立しているので、演奏者の音楽性が前面に表れてしまいますからね。録音をするのはとても勇気が必要でしたが、“今だからこそできるものを”と思い、臨みました」 今回のモーツァルトは「ソナタ第2番」を除き、すべて短調が主体となった作品でまとめている(ソナタも第2楽章は短調である)。これには橋本のこだわりがあった。 「モーツァルトの短調には、長調の作品とは明らかな違いがあります。心の奥底にある、どうしようもなく、逃れることのできない“かなしみ”が聞こえてくる気がするのです。私はそれがとても好きで、どうしても今回のテーマにしたかったのです」 また、「アダージョ ロ短調」のように演奏機会の少ない作品も収録され、各曲の調が関連を持つような曲の配置からも橋本の徹底した世界観の構築が見て取れる。それは濃淡の明瞭なタッチが紡ぎ出す多彩なキャラクター性のある演奏にも反映されている。 「モーツァルトのピアノ作品は、他の楽器の音色を絶えず意識する必要があります。場面転換や急激な転調などが多くドラマティックなので、オペラ的な感覚を持つことも非常に重要です。私が学生にモーツァルトを教えるときも、必ずオペラを聴くようにと言っています」 他の楽器の音色を常に意識し、具現化させる橋本の音色と音楽性は、ミッシャ・マイスキーなど世界的な演奏家からの信頼も厚い。このピアニズムには齋藤秀雄の最晩年に薫陶を受けたことがとても大きかったという。 「高校2年生の夏から2年間、齋藤先生のもとでフルスコアを読んで60曲以上のオーケストラ作品を弾かせていただきました。徹底的に弦楽器や管楽器の音色を再現することを叩き込まれたことは、今でも大きな財産になっています」 積み重ねてきた経験や多くのアーティストとの共演といった糧を、自らの音色や音楽性に昇華し続ける橋本。「何かの“スペシャリスト”になるのではなく、様々なことに挑戦し続けたい」と語る彼女が奏でるモーツァルトは、“影”という一見モノトーンの世界の中にたくさんの表情と色を見出すことができるはずだ。6/19(火)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール問 東京オペラシティチケットセンター 03-5353-9999http://www.operacity.jp/東京オペラシティBビートゥーシー→C 根本めぐみ(ホルン)天性のセンスで魅せるホルンの多彩美文:柴田克彦 聴くと全身心地よいのがホルンの魅力。6月の東京オペラシティ『B→C』に、それをてらいなく体感させる若き名手・根本めぐみが登場する。東京藝大出身の彼女は、2015年の日本管打楽器コンクール第1位をはじめ、数々のコンクールで入賞し、ソリストとして東響等と共演。現在は東京ニューシティ管や神戸市室内管の奏者を務めている。特長は、自然で柔らかな音色、音楽に優しく寄り添うアプローチ、そして技術の高さを意識させない音楽的センス。 2度目のリサイタルとなる今回は、日本ホルン・コンクールのために書かれた西村朗の高難度の無伴奏ソナタ、シューマンの超名曲、ピアノの蓋にホルンのベルを向けて響きを残すといった特殊奏法が面白いキルヒナーの作品、バッハの王道無伴奏チェロ組曲、「綺麗な曲を」と委嘱した藝大の後輩・森亮平の新作、シューベルトのピアノ・ソナタ第20番が引用されたマドセンのソナタと、バラエティ豊かなプログラムが興味をそそる。ここはぜひ、優しく美しい響き、超絶的かつナチュラルな演奏に身を浸したい。
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