eぶらあぼ 2018.6月号
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1948月+夏の音楽祭(その2)の見もの・聴きもの曽そし雌裕ひろかず一 編 本号では前号に引き続き、夏の音楽祭を中心としたコメントを掲載しますが、スペースの関係で取り上げられなかった音楽祭、コメントできなかった要注目公演もたくさんあります。ご容赦のほどお願いいたします。 また、◎印を付けた公演は、注目度も高く人気のある公演も多いため、発売早々に完売となっているケースも十分に考えられます。その点もお含みおきの上、ご参照下さい。●【夏の音楽祭】(8月分)〔Ⅰ〕オーストリア 今年のザルツブルク音楽祭のオペラ公演は、なかなか面白そうなものが揃っている。ウェルザー=メストの振る「サロメ」、劇場経験豊富で若手実力派として注目のカリーディス指揮による「魔笛」、ヤンソンス指揮、ノイエンフェルス演出の「スペードの女王」、ザルツブルク聖霊降臨祭音楽祭からの移行公演でもあるバルトリ出演の「アルジェのイタリア女」、クリスティ指揮レザール・フロリサンの演奏する「ポッペアの戴冠」、奇才HK.グルーバー指揮のアイネム「審判」、それにケント・ナガノとウィーン・フィルの組み合わせによるヘンツェ「バッカスの巫女」など、若干マニアックなものもあるがどれも大いに興味を惹く。一方、オーケストラ公演では、最近何度かキャンセルの続いていたサロネン=ウィーン・フィルの組み合わせによる演奏会の他、クルレンツィス=ムジカエテルナのベートーヴェン交響曲全曲ツィクルスが要注目。ラトル=ロンドン響、ペトレンコ=ベルリン・フィルも登場する。器楽・室内楽関係では、イゴール・レヴィットのピアノによるワーグナー「パルジファル」のパラフレーズ、シフのバッハ「平均律クラヴィーア曲集」第1巻・第2巻、ベルチャ四重奏団、エベーヌ四重奏団等のアンサンブルが聴きもの。 「インスブルック古楽フェスティバル」は、ヨーロッパで大変評価の高いカザル四重奏団の演奏会が要注目。他にも、メルカダンテの珍しいオペラ「見捨てられたディドネ」やカヴァッリの「アポロとダフネの愛」、A.スカルラッティの「ダヴィデの戦いと勝利」などの音楽劇作品に加え、ラ・キメラの演奏による南米音楽やファソリス指揮のパレストリーナ作品など、今年は古楽マニアを唸らせるなかなかの内容となっている。〔Ⅱ〕ドイツ 「シュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭」、「MDR音楽の夏」、「ラインガウ音楽祭」は、共に性格の似た広域音楽祭。本文では主要公演しか取り上げていないので、詳細はぜひ音楽祭HP等でご確認いただきたい。なお「ラインガウ音楽祭」では、本文に取り上げた地区の他にも、ヴィースバーデンから西に約20キロ離れたヨハニスブルク城(ガイゼンハイムの郊外)で、室内楽の優れた演奏会も数多く開かれている。「ブレーメン音楽祭」(8月分)では、インマゼール、クルレンツィス指揮の演奏会の他、エキルベイ指揮のハイドン「天地創造」、ダントーネ=アカデミア・ビザンティナの演奏によるヨンメッリ、ポルポラの「アリア集」、グレゴリ、ジェミニアーニの「合奏協奏曲集」といった注目公演もある。また「ルール・トリエンナーレ」では、アイヴズの作品をフィーチャーしたマルターラー演出による企画公演、ヘンツェの「メドゥーサの筏」の上演等、例年どおりのマニアックな内容。なお、アンスバッハの「バッハ週間」は隔年で開催される音楽祭のため、今年はお休みで、次回は2019年に開催予定。〔Ⅲ〕スイス 「ルツェルン国際音楽祭」は8月から9月にかけて開催されるが、8月分に関してはオペラ等の舞台作品には掲載該当公演がない。その分オーケストラ公演には、シャイー、ハイティンク、ノット、ロト、キリル・ペトレンコといった人気有名指揮者が連日のように登場する。また、今年注目すべきは、ルカ教会で行われるデビュー・シリーズに、ヴァイオリンの五嶋龍、クラリネットの橋本杏奈といった日本人が続けて出演すること。その他「驚くべき子供」というクレジットの付けられた公演には、5歳で初めて作曲を手掛け、今(現在12歳か13歳)ではピアノから、ヴァイオリン、弦楽四重奏、オペラまで作曲する現代のモーツァルトとも呼ばれる「神童」アルマ・ドイチャーも登場する。また、今年の2月11日に80歳の誕生日を迎えたスイスの名ソプラノ歌手エディット・マティスがハイネの作品を朗読する公演(8月18日)も往年のファンにとっては嬉しい催し。一方、スイスでは、高級山岳リゾート地での夏の音楽祭がいくつも開催されており、その中から「グシュタード・メニューイン・フェスティバル」と「ヴェルビエ音楽祭」を紹介した。どちらも市中の教会で連日催される演奏会が実に魅力的。詳細はHPをご参照のほど。〔Ⅳ〕イタリア 夏の間「カラカラ浴場跡」でオペラ公演を行うローマ歌劇場については先月号の本欄でも触れたが、この他、ヴェローナやトーレ・デル・ラーゴ、マチェラータなど、イタリアの夏の音楽祭は野外ステージでの公演に有名どころが多い。そうした中、通常の室内劇場で繰り広げられるロッシーニの饗宴が「ペーザロ・ロッシーニ・フェスティバル」。今年は「リッチャルドとゾライーデ」「アディーナ」といった珍しい作品に加え、オペラ名曲中の名曲とも言うべき「セビリアの理髪師」の上演もある。〔Ⅴ〕フランス〔Ⅵ〕ベネルクス フランスの「ラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ・フェスティバル」は内容的には出演者も充実したお薦めできるピアノ音楽祭だが、難点は野外の仮設ステージであることと現地周辺にホテルがほとんどないこと。ご留意のほど。一方、ベルギーやオランダでは古楽中心のハイレベルな音楽祭がいろいろ開催されている。残念ながら詳細内容まで記述できなかったが、本文にある「ユトレヒト古楽祭」、「アントワープ古楽祭」はコアな古楽ファンにも大変評価の高い音楽祭なので、関心の向きには是非一度足を伸ばしてみることをお薦めしたい。〔Ⅶ〕イギリス〔Ⅷ〕北欧 「プロムス」(8月分)では、サロネン=フィルハーモニア管のワーグナー「ワルキューレ」第1幕、パッパーノ指揮ローマ・サンタ・チェチーリア国立管のバーンスタイン作品、ラトル=ロンドン響のラヴェル「子供と魔法」などが特に目に付く公演だが、P.ヤルヴィ=エストニア祝祭管のペルト作品など、他ではなかなか聴けない公演も含まれている。「グラインドボーン・オペラ・フェスティバル」(8月分)での注目は、フルシャの指揮するバーバー「ヴァネッサ」のプレミエ。最近のフルシャの活躍には目を見張るものがあり、オペラ指揮者としても彼の名前を見ない月はほとんどないくらいだ。また、コスキー演出のヘンデル「サウル」も注目公演。「エディンバラ国際フェスティバル」では、ジェレミー・ローレル指揮、ペリー演出のロッシーニ「セビリアの理髪師」、ジョン・ゲイの台本にペープシュが音楽を付けた「ベガーズ・オペラ(乞食オペラ)」、ヘアハイム演出のロッシーニ「チェネレントラ」といった舞台作品が要注目。他にも、ラトル=ロンドン響、エマールのピアノ、フルシャ=バンベルク響のドヴォルザーク「レクイエム」など、相変わらずの聴きものが揃っている。 スウェーデンの「ドロットニングホルム・オペラ・フェスティバル」では、7月より上演の続く勅使川原三郎の演出・振付になるラモー「ピグマリオン」が要注目公演。なお、本文では紹介できなかったが、ヘルシンキ・フェスティバルで、8月17日に「サロネン60歳記念演奏会」(フィンランド国立歌劇場管)が開かれるので、サロネン・ファンの方はご記憶いただきたい(www.helsinginjuhlaviikot./en/programme/esa-pekka-salonen-60-years/)。 (曽雌裕一・そしひろかず)(コメントできなかった注目公演も多いので本文の◎印をご参照下さい)2018年8月の
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