eぶらあぼ 2018.6月号
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184CDCDCDCDシューベルト:ピアノ・ソナタ第21番/マルク=アンドレ・アムラン高山惇作品集Ⅱ ~あなたの心の中に~/森池日佐子&樋上眞生チェコ・フィルハーモニー弦楽四重奏団 ライヴ・イン・東京 2016ショスタコーヴィチ:交響曲第5番/ラザレフ&日本フィルシューベルト:ピアノ・ソナタ第21番D960、4つの即興曲D935マルク=アンドレ・アムラン(ピアノ)高山惇:一人七夕の夜に、一人クリスマスの夜に、口、みんなが行ってしまったら、潮が引くように、銀婚式、逃げる草、山づたい、断章、夜の狐、祖谷粉挽唄、お母さん、あなたの心の中に森池日佐子(メゾソプラノ)樋上眞生(ピアノ)モーツァルト:弦楽四重奏曲第23番「プロイセン王第3番」/ヤナーチェク:草陰の小径にて 第1集(J.ブルクハウザーによる弦楽四重奏編)/マルティヌー:弦楽四重奏曲第7番「室内協奏曲」 他チェコ・フィルハーモニー弦楽四重奏団ショスタコーヴィチ:交響曲第5番アレクサンドル・ラザレフ(指揮)日本フィルハーモニー交響楽団ハイペリオン/東京エムプラスPCDA68213 ¥2857+税BeltàレコードYZBL-1052 ¥1852+税収録:2016年9月、東京文化会館(ライヴ)ナミ・レコードWWCC-7870 ¥2500+税収録:2017年6月、横浜みなとみらいホール(ライヴ) 他オクタヴィア・レコードOVCL-00659 ¥3000+税アムランの実力が遺憾なく発揮された名演。ソナタでは、冒頭から柔らかで温かみのある中音域の響かせ方と和音のバランスに既に非凡なものを感じさせるが、その表情は遅めのテンポを基調としながら絶妙なアゴーギクを駆使して旋律を感じ抜いており、それはまるで冥界からの声のように響く。この曲の要である第1楽章でここまで深い表現を聴かせた演奏として最近の録音の中では随一のものだ。即興曲もまた同様に質の高い演奏だが、ここでも全体としてのテンポのささやかな揺らし方が楽曲のロマン的心情を如実に表出している。オーソドックスなレパートリーでもアムランは凄い。(藤原 聡)言葉一つひとつに、寄り添う旋律と和声。それらが、“声を入れていく”という表現がぴったりの、滋味あふれる歌い回しによって、いっそうの生気を得る。「朝日作曲賞」など数多くの受賞を重ね、関西を拠点に活躍、2016年に逝去した高山惇の追悼盤。故人も絶大な信頼を寄せていた、関西オペラ界が誇る名メゾソプラノの森池日佐子が、数々の佳品を心をこめて歌い上げてゆく。作曲者の自作や寺山修司らの手になる名詩の言葉は、多層的な喜怒哀楽の感情を孕み、時に繊細で、時に情熱的。名手・森池は、少しのニュアンスの違いも逃さず掬い取り、ピアノの樋上眞生も色彩豊かなタッチで応える。(笹田和人)チェコ・フィルのメンバーを中心とする弦楽四重奏団の東京ライヴ。3人の作曲家の味わいある佳品を集めたこだわりの演目で、高水準かつローカル色のにじみ出る演奏を聴かせてくれる。チェコの弦ならではのあたたかい音色、おおらかな構えが心地よい。ゆとりはあってもゆるみはなく、弦楽四重奏の喜びを適切に伝えてくれる。欧米の最先端の若手団体の醸す緊張感とはちがう、室内楽本来の親密さはやはり捨てがたい。なかでも母国の2曲の自然な歌とハーモニーの美しさ(特にヤナーチェクにおける情趣)、そしてアンコールのベートーヴェンのホッとする空気感はいまや貴重なもの。(林 昌英)一般的にロシアの楽団からイメージするのは、足腰の粘りを生かしたパワフルなサウンド、聴き手を酩酊状態に誘う濃厚な歌心などだが、ラザレフのリードする日フィルがこうした特質をいつの間にか手中にしていることに、まず驚いた。スケルツォでは低音が大地をえぐって進撃し、ラルゴのクライマックスでは弦のトレモロがぼこぼこと沸騰しながら旋律に熱量を与える。フィナーレではエンジンが焼き切れる寸前まで加速。だが、実はこれをハードでスリリングなドライブにしているのは、行き届いたフレージングやアーティキュレーションの処理なのだ。厳密なリハで知られるラザレフの面目躍如。(江藤光紀)
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