eぶらあぼ 2018.6月号
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180CDCDSACDCD鈴木輝昭 室内楽の地平ドビュッシーの夢/青柳いづみこベートーヴェン:ピアノ作品集1/伊藤恵Soli Deo Gloria J.S.バッハ クラヴィア・ユーブング第3部/宮本とも子鈴木輝昭:無伴奏チェロ組曲第1番、スピリチュエルⅡ~チェロとピアノのための、弦楽四重奏曲第3番、ピアノ三重奏曲第1番、ディヴェルティメント~チェロ合奏のための篠原悠那 桐原宗生 鍵冨弦太郎(以上ヴァイオリン) 中恵菜(ヴィオラ) 鈴木皓矢 横田誠治(以上チェロ) 鈴木あずさ(ピアノ) 他ドビュッシー:聖セバスチャンの殉教(A.カプレによるピアノ編曲版)、夢/コダーイ:ドビュッシーの主題による瞑想曲/ドビュッシー:前奏曲集第1巻青柳いづみこ(ピアノ)ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第21番「ワルトシュタイン」・第23番「熱情」、アンダンテ・ファヴォリ伊藤恵(ピアノ)J.S.バッハ:プレルーディウム オルガノ・プレノのためのBWV552/1、「キリエ、聖霊なる神よ」BWV671、「いと高きところにいます御神にのみ栄光あれ」BWV675-6、「天の王国にいます私たちの父よ」BWV682-3、4つのデュエットBWV802-5 他宮本とも子(オルガン)日本アコースティックレコーズNARD-5062 ¥3000+税コジマ録音ALCD-7221 ¥2800+税FONTECFOCD9779 ¥2800+税コジマ録音ALCD-1177, 1178(2枚組) ¥3400+税目まぐるしく動く声部が有機体のように絡んで線の束を織り上げ、音の波となって押し寄せる。鈴木輝昭は音のアクロバティックな身振りを次々と繰り出して聴き手を圧倒するが、その関心は音色や奏法の開発というよりも、弦楽四重奏やピアノトリオといった古典的なメディアにおけるテクスチュアやドラマトゥルギーの探求へと向いている。出発点にはまっとうな西洋音楽の伝統があり、そのことはフランス古典舞曲のタイトルを各章に配した冒頭の「無伴奏チェロ組曲第1番」にシンボリックに表れている。初演・再演時の録音を集めたものだが、若手たちがハイテンションでフレッシュな演奏を繰り広げている。(江藤光紀)ドビュッシーが思い描いた情景、果たせなかった夢の音風景が、1925年製のベヒシュタインE型で鮮やかに蘇った。低音の渋みがかった色彩、スタッカートの心地よい音の弾みなど、不思議な魅力のある名器である。青柳いづみこは、少々古風で、且つどこか我の強い楽器を意のままに操り、「沈める寺」「ミンストレル」などの名曲から意外な表情を引き出した。カプレ編曲の「聖セバスチャンの殉教」のミステリアスな音空間は、まさにこのディスクの白眉。コダーイの「ドビュッシーの主題による瞑想曲」を聴くと、このフランスの巨星の影響の広がりを感じずにいられない。 (伊藤制子)シューマンおよびシューベルトの録音に取り組み続けてきた伊藤恵が、先人への道筋を辿るようにして、いよいよベートーヴェンの作品集に取り掛かった。第1弾は、楽器の可能性を探り続けたベートーヴェンが、当時最新鋭のピアノで創造力を爆発させた、ソナタ第21番「ワルトシュタイン」と第23番「熱情」を収録。伊藤は20世紀イタリアが生んだメーカー、ファツィオリのピアノを用いた。伸びのよい低音と、品良く華やかな高音の響きを生かし、作品の息吹を丹念に味わわせてくれる。「アンダンテ・ファヴォリ」の愛らしさからは大作曲家の優しさも滲み出る。 (飯田有抄)40年にわたって歴史的鍵盤楽器の演奏に取り組む、宮本とも子によるバッハ録音。今回は、宗教改革の約200年後に出版された「クラヴィーア練習曲集第3部」を、フェリス女学院にある、18世紀北ドイツの様式に基づくオルガンで弾く。ルター派の教理を凝縮、ヌメロロジー(数秘学)の網も張り巡らせた当作は、宗教から縁遠い者には難解と捉えられがち。だが、宮本はただ真摯に、祈りのように対峙。レジストレーションもプレイも、決して奇を衒わず、聴く者すべてを優しい表情で招き入れる。それは録音に先立ち、彼女自身が学生たちと共に作品を学び直し、改めて得た新鮮な感動も大きく作用している。(寺西 肇)

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