eぶらあぼ 2018.5月号
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Presented by Pro Arte Musicae “鉄のカーテン”が崩壊する直前の1987年、オーストリアとハンガリーの選りすぐりの音楽家を集め「ハイドン作品をともに演奏することで音楽的に国境を克服しよう」という指揮者アダム・フィッシャーの考えのもとに結成されたのが、ハイドン・フィルハーモニー。アイゼンシュタットにあるエスターハージー城内のハイドン・ザールを本拠地とし、文字通りハイドン作品をメインに精力的な活動を展開してきた。 ヨーロッパやアメリカ、そして2009年には日本でのツアーなどを成功させ、その実力は国際的に知られている。2015/16シーズンからは指揮者でチェリストでもある、ニコラ・アルトシュテットが芸術監督を務め、楽団を更なる高みへと導いている。 アルトシュテットは1982年生まれ。チェリストとしていくつかの国際的なコンクールで優勝を重ねたあと、2012年からはギドン・クレーメルの後を継ぎ、ロッケンハウス室内楽フェスティバルの芸術監督にも就任するなど、欧州で注目されている。9年ぶりとなるハイドン・フィルの来日ツアーも彼が指揮者、ソリストとして活躍する。 芸術監督就任以来、オーケストラはどのように変化したのだろうか。 「私が芸術監督になってからは、立奏やガット弦の使用を提案してきました。また、私の呼びかけにより、ヨーロッパ各地のオープンなマインドを持つ優れた演奏家が、ハイドン・フィルに新たに加わりました。ですから、オーケストラは生まれ変わったように新しい魅力を放っています」 楽団の名前に冠されているハイドンについては「今日私たちが耳にするほとんどすべての音楽がハイドンに影響されています」と言う。 「たとえば、ベートーヴェンの『第九』終楽章の器楽によるレチタティーヴォというアイディアや、ワーグナーの『トリスタン和音』は、ハイドンの『協奏交響曲』や『天地創造』に関係性を見いだすことができるのです」 来日ツアーでは、ハイドンのチェロ協奏曲第1番で弾き振りも披露。 「長年この作品を演奏してきましたが決して飽きることはありません。つい最近作曲されたような新鮮味に溢れています。また、バッハからバルトーク、リゲティに至るまであらゆる作曲家の作品に興味があります。ただ、19世紀以来、演奏家や作品を解釈する者に焦点が当たりすぎていると感じています。もっと作品そのものへ光を当てることも重要だと考えます」 指揮者とチェリストでは音楽へのアプローチの違いはあるのだろうか。 「まったく同じですが、音楽作りのチャンネルが違うだけです。ただ、チェロの場合は私自身が音楽を物理的に奏でますので、より直接的かもしれません。また、指揮者としてもチェリストとしても、常に新しい作品を学んでいます。どちらも時間がかかりますが、私がすべての音楽の一部となるまでには、ある程度のリハーサルや本番が必要だと思います」 今後の活動については「19/20シーズンにベートーヴェンの交響曲全曲を取り上げることを非常に楽しみにしています。また、私個人としては、フィンランドのセバスチャン・ファーゲルルンドと、スイスのヘレナ・ヴィンケルマンが私のために書き下ろしてくれる新作を演奏することです」とのこと。 若き芸術監督により生まれ変わったハイドン・フィルの鮮烈なサウンドを体験できるまで、あと少しだ。ニコラ・アルトシュテット(指揮/チェロ)ハイドン・フィルハーモニー[プログラム A]ハイドン:交響曲第92番「オックスフォード」、チェロ協奏曲第1番、交響曲第94番「驚愕」[プログラム B]ハイドン:交響曲第94番「驚愕」、チェロ協奏曲第1番、モーツァルト:交響曲第41番「ジュピター」6/24(日)15:00 福岡シンフォニーホール (B)6/26(火)19:00 札幌コンサートホールKitara (A)6/27(水)19:00 刈谷市総合文化センター アイリス (B)6/28(木)19:00 長野市芸術館 メインホール (B)6/30(土)14:00 サントリーホール (A)問 プロアルテムジケ03-3943-6677 http://www.proarte.co.jp/©Marco BorggreveNicolas Altstaedt/指揮・チェロ構成・文:編集部 取材協力:プロアルテムジケ

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