eぶらあぼ 2018.5月号
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182CDCDDVDSACD第19回 別府アルゲリッチ音楽祭/アルゲリッチ&小澤征爾&水戸室内管シベリウス ヴァイオリン協奏曲 ―モントリオール国際音楽コンクールを制した辻彩奈の世界―白鳥の湖 サクソフォーン・オーケストラ編/昭和音楽大学 昭和サクソフォーン・オーケストラレスピーギ:ヴァイオリン・ソナタ、フランク:同/鈴木理恵子&若林顕ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番/スカルラッティ:ソナタ ニ短調K.141=L.422/モーツァルト:ディヴェルティメントK.136より第1楽章 他マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)小澤征爾(指揮)水戸室内管弦楽団シベリウス ヴァイオリン協奏曲/サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ/ストラヴィンスキー:協奏的二重奏曲辻彩奈(ヴァイオリン)ジャンカルロ・ゲレロ(指揮) モントリオール交響楽団フィリップ・チウ(ピアノ)ワーグナー(圓田勇一編):《ニュルンベルクのマイスタージンガー》より第1幕への前奏曲/ヴィラ=ロボス(足立雄大編):ファンタジア/ラヴェル(野原武伸編):クープランの墓/チャイコフスキー(福本信太郎 他編):「白鳥の湖」より 他大森義基 榮村正吾(指揮) 松原孝政(サクソフォーン独奏) 昭和音楽大学 昭和サクソフォーン・オーケストラ 他レスピーギ:ヴァイオリン・ソナタ/フランク:同/パラディス:シチリアーノ/ブーランジェ:夜想曲ヘ長調/フォーレ:子守歌op.16鈴木理恵子(ヴァイオリン)若林顕(ピアノ)収録:2017年5月、iichikoグランシアタ 他(ライヴ)アルゲリッチ芸術振興財団AMP-1802 ¥4167+税収録:2016年6月、モントリオール(ライヴ)ワーナークラシックスWPCS-13754 ¥2800+税マイスター・ミュージック MM-4030 ¥3000+税オクタヴィア・レコードOVCL-00661 ¥3200+税小澤指揮水戸室内管とアルゲリッチ——なんともゴージャスなコラボに選ばれた曲は、ベートーヴェンの協奏曲第1番。その指先から生まれる音楽は相変わらず瑞々しい。第1楽章はモーツァルトのように典雅で軽やか、遊び心に富んでいる。第2楽章は一つひとつの音を慈しみながら、甘美な歌を聴かせる。終楽章では音楽が弾み、ことに中間主題はラプソディックな味わいを見せる。各楽器と親密に呼び交わしながらオケを変幻自在に色づけするあたり、さすがの千両役者ぶり。音楽祭の概要を伝えるダイジェスト映像も収録され、90年代にこの地に蒔かれた種が、いま大きく花開いていることを伝えてくれる。(江藤光紀)2016年に難関・モントリオール国際音楽コンクールを制した辻彩奈。日本人初の快挙も、このライヴ録音を聴けば、大いに納得がいくだろう。卓越した美音や技術は言わずもがな、才媛・辻の真骨頂は、その絶妙なバランス感覚。例えば、シベリウスの技巧的なパッセージだけでなく、緩徐部へ耳を傾けてほしい。彼女が、いかに細やかな心遣いを見せていることか。常に前面に出ようとするソリストが多い中、出るべき場面では出て、引くべき時は引く。その変幻自在で彫りの深い音楽創りが、若さにそぐわぬほどの限りない滋味を生む。共演のオケやピアノも、単なる“伴奏”を超えた、いい仕事をしている。(寺西 肇)打楽器とハープ以外はすべてサクソフォーンによるユニークなオーケストラの最新盤。ソプラニーノからコントラバスまで7種の楽器を用いて広い音域をカバーしながら、80名を超える奏者が重層的かつ柔らかな響きを奏でている。《マイスタージンガー》前奏曲とチャイコフスキーの2つの管弦楽曲も、驚くほど自然な演奏。しかもサクソフォーンでしか味わえない音色の妙を堪能させてくれる。元々同楽器をフィーチャーしたヴィラ=ロボスの作品と、フランスのテイストが楽器に合った「クープランの墓」の官能性や色彩感はさらに聴きもの。これは耳に新鮮な1枚だ。(柴田克彦)鈴木理恵子と若林顕の夫妻によるデュオが、2つの大作ソナタに挑んだ。一流のヴァイオリニストでもあったレスピーギの詩的なソナタは、演奏機会自体が稀少だが、あえて取り上げた意気込みは、練りあげたニュアンスと端正なフォルムに昇華され、本作の価値を知らしめる好演になった。大詰めの詠嘆の美は胸に迫る。フランクの有名作でもスタンスは同様で、ありがちな表現に陥らないように細心の注意を払っている。そういったストイックな音づくりから漂う“大人の艶”ともいうべき情感は、パラディスとブーランジェ、ふたりの女性作曲家の小品でもひときわ魅力を放っている。(林 昌英)

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